解題・説明
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【判型】半紙本1冊。 【作者】十返舎一九(重田一九)作・序。原題簽(底本にはない)の挿絵は歌川国安(一鳳斎)画。巻頭口絵は歌川国丸(朝霞楼)画。 【年代等】文政6年(1823)春自序。文政6年3月刊記。文政7年刊。[江戸]山口屋藤兵衛板。 【概要】分類「往来物(歴史科)」。江戸書肆・山口屋から出版された一連の伝記型往来の1つで、足利尊氏の武将としての生涯を題材にしたもの。一九はこれらの作品群の中で数々の名将の事蹟や人物像を紹介するが、近世以来「忠臣」とされた楠木正成や新田義貞らのほかに、朝敵とされた「足利尊氏」に焦点を当てた点は興味深い。「抑、足利治部太輔尊氏者、清和天皇十五代、讃岐守源氏之二男也…」で始まる本文の冒頭で、彼の出生に触れ、続いて、元弘の乱で北条高時を裏切って京都に乱入して六波羅を陥落させてからの彼の戦乱の歴史を概説し、最後に、新田義貞の戦略や楠木正成の智謀を打ち破ってついに京都室町に幕府を開き、万民が安堵の床に臥し、万歳千秋の楽しみを極めるに至ったと結ぶ。本文を大字・5行・付訓で記し、末尾を「恐々欽白」と結ぶ書簡風の文章で綴る。巻頭口絵に歌川国丸画の「尊氏合戦図」を掲げ、頭書には本文とは無縁の暦占関係の記事(「十幹十二支之事」「十二支指掌図」「六壬時(りくじんじ)のうらなひ」「病算うらなひ」「厄歳之心得」など)を載せる。 【備考】底本は原題簽を欠くが書名は原題簽による(外題角書「甲申新版」)。また、刊行年もこれに従った。なお、本書以外にも同筆が見られるが、本書の版下は十返舎一九の直筆であろう。(小泉吉永 記)
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