解題・説明
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【判型】中本1冊。 【作者】鈍通人(根柄金内)作。丈詡(言+羽)画。 【年代等】江戸後期刊。刊行者不明。 【概要】分類「往来物(産業科)・戯文」。堀流水軒作『商売往来』の文言に似せて、主として「新造(初心の遊女)」に必要な用語や心得を綴った戯文。巻首「性売往来発端」に、遊女の道ある所以や本書の由来について記すほか、北国で有名なある遊女が、苦界の年季も滞りなく勤め上げたが、生まれつき気高い女であったため、安易に男と縁組みせずに独り身で暮らし、手習指南で生計を立てて両親を養ったという。そんな彼女が馴染みの新造(新米の遊女)や禿(かむろ、遊女見習いの少女)に書き与えたのが本書であると記すが虚構である。本文は、「凡、性売持扱紋日、淫事、交合(とりやり)之日記、証文、身之代、仕切之覚也…」と『商売往来』と酷似する文言で書き出して、遊女の各階級毎に分別をわきまえ如才なく働くべきであるといった心得や、遊郭で使われる用語・隠語を列記する。その際、例えば「株絶(かぶたえ)」に「しんせうをぼうにふりし人をいふ也」の如き遊里言葉に割注を施す。続いて、衣類染色・武具・家財・諸道具・薬種・香具・魚鳥等の語彙を列挙し、最後に、遊郭に勤める娘は若いうちから手習い・給仕・掃除などの基本を身に付け、余力に応じて各種芸能を稽古すべきこと、また、座敷に出た際の注意や客を大切にすべきことなどの心得も教える。本文を大字・5行・付訓で記す。巻頭には「性売往来発端」のほかに、「御寺大黒の画像」を掲げて、大黒天が「商い(飽きない)の神」と呼ばれる理由に触れ、頭書にも「七夕(契りの薄い客の異称)への心を詠んだ「七夕歌づくし」や、遊女の隠語を集めた「篇冠づくし」、「契情五ッの徳」等の記事を載せる。 【備考】題簽の一部が破損しているが「〈遊里〉女性売往来」と印刷されていたものと思われる。(小泉吉永 記)
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