解題・説明
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【判型】大本2巻合1冊。 【作者】伝藤原明衡作。 【年代等】平安後期作。寛永19年(1642)5月刊。[京都]西村又左衛門板。 【概要】分類「往来物(古往来)」。『明衡往来』の近世最古刊本の一つ。消息文例89条131通を収めた古往来で、『群書類従』所収本など古写本系統の『明衡往来』とやや異なる。第1条1通より第23条46通までは配列も書状内容も『群書類従』本と一致するが、これ以後に多くの相違がある(古写本系統に見られない独自の書状である第26条第50通「宇治院為殿御領之由」を含む)。従って、本書は『群書類従』本とは別系統の往来と見なすべきである。その先駆として文安元年(1444)、僧実憲書『雲州往来』(36条46通、尊経閣文庫蔵)や、室町中期書『明衡消息抄』(88条131通、謙堂文庫旧蔵)等に遡るが、それが底本の寛永19年板(西村又左衛門板)に受け継がれた。これは、有郭の本文に89条131通を楷書に近い行書・大字・6行・稀に付訓で記し、所々割注を施す。続いて無刊年の江戸前期刊本(中川茂兵衛板)が刊行された。この無刊年本は、『寛文10年(1670)書目』に「振仮名付、三冊」と記された無郭の付訓本で、習字手本としての色彩が強く、本文(88状130通)を行書・大字・6行・付訓(総振り仮名)で記す(割注なし)。江戸前期に刊行された2系統の『明衡往来(明衡往来富貴大成とも)』は、ともに文政9年(1826)に北村曹七によって再刊されるなど、江戸後期に至るまで広く流布した。 【備考】本書は、『雲州往来』『雲州消息』とも呼ばれる。また、近世刊本では、概要に示した江戸前期2系統のほかに、特殊な板種として、宝暦3年(1753)篠田行休筆、江戸中期刊『〈大橋〉明衡往来』があるが、これは『明衡往来』から第18条往状・第19条往状の2通を抄録し、消息文例や詩歌若干を加えた大字の手本である。(小泉吉永 記)
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