解題・説明
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【判型】半紙本1冊。 【作者】不明。 【年代等】享和元年(1801)9月刊。[名古屋]三星屋吉兵衛(黄巻堂)板。 【概要】分類「往来物(地理科)」。『竜田詣』の改編本。「常々申談候竜田参詣之事、紅葉も漸時節に可有之候。何頃可被思召立候や…」で始まる女文形式で奈良より大和路をたどって竜田に遊び、次いで大坂を経て京都に至るまでの名所旧跡・神社仏閣等を紹介する。本文を大字・5行・付訓で記す。参詣の順路は流布本の『竜田詣』とほぼ同じで、奈良春日大社に始まり、三輪山、長谷寺、多武峯を経て吉野を巡り、当麻寺から天王寺、大坂、さらに淀川を船で上って京都に至る。冒頭1丁の文章が流布本とは大きく異なり、他の箇所にも若干の異同があり、「西行の庵室」「兵庫」「尼崎」などを加える一方、『竜田詣』にあった「立田川の流れは、今に中絶えず…」の前後を簡略化する。恐らく『芳野往来』の書名に即して「立田(竜田)」方面の記述を削除した結果であろう。また、手紙の相手を老人にしている点も流布本とは異なる。なお、巻首に「片仮名」「九九数」「名頭尽」を付す。 【備考】本書と同内容の菱屋板(外題『芳野往来』または『〈嘉永新板〉都往来・吉野往来』)には「片仮名」以下の付録記事を欠く。なお、『竜田詣』は、江戸中期から江戸後期にかけて広く流布した往来で、既に正徳5年(1715)刊『女童子往来』中の「大和廻竜田詣さそひにやる文」や享保19年(1734)刊『〈寺沢〉年中往来』後半部にも収録されている。岡村金太郎『往来物分類目録』は、近松門左衛門による元禄頃の作とするが未詳(現存の単行刊本では宝暦6年(1756)刊『竜田詣〈并散艸〉』が最古)。(小泉吉永 記)
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