解題・説明
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【判型】半紙本1冊。 【作者】十返舎一九作。晋米斎玉粒(藍庭玉粒・林信)書。歌川国貞(一陽斎・香蝶楼・五渡亭)画。 【年代等】文政6年(1823)作・刊記。文政7年刊。[江戸]山口屋藤兵衛板。 【概要】分類「往来物(教訓科・女子用)」。文政(1818~30)頃に山口屋藤兵衛から出版された、大判の色刷り絵題簽を付す一連の往来物の1つ。序文にあるように「人の生れ出るより生涯の事々」を述べた往来。自序で、胎内十月の状態から出生後の10歳までの生長過程に触れる。「凡而人之為子者、自脱襁褓生涯成立之事々普通称の文字者(すべてひとのこたるものは、きょうぼうをぬぎしよりしょうがいせいりゅうのじじ、あまねくつうしょうのもんじは)…」で始まる本文は、ほとんど誕生以後の通過儀礼の名称と関連語の列挙に近く、枕直・七夜の祝い・宮参・喰初・上巳および端午の節句・紐解・髪置・袴着・手習算盤稽古・遊芸・躾方作法・元服・家督相続・聟養子・近所付き合い・家業出精・女子の婚礼・婚姻後の孝行、さらに初老から米寿の祝いや隠居後の生活までを、折々心得を交えつつ順々に述べる。「遊芸」の条では、女子の武家奉公には無芸では務まらぬ旨が記され、また、「行儀作法」では、奉公によって社会性が培われることが強調されており、当時の稽古事や他家への奉公の位置づけ、すなわち、当時の町人社会の常識の一端が示されていて興味深い。また、一般に女子用往来と男子用の往来とは、文体・内容ともに明確な差異を呈するのが常であるが、男女を区別せず同時に扱うのも本書の特徴である。本文を大字・5行・付訓で記す。巻頭口絵に国貞画の「堪忍袋」図、頭書に「書札封じ作法」「遺物進上目録書様」「遺物受候返礼認様」「太刀折紙書法」「目録之書法」「香奠折紙書様」「女中え進上目録書様」「女中より男の方へ目録」「書状書始の高下」等の書簡作法、また、「日和善悪のこと」の記事を載せる。 【備考】刊行年は原題簽角書「甲申新版」による。巻末「新板往来手本物目録」に同シリーズの書名14点を列挙する(一部実際の書名と異同がある)。(小泉吉永 記)
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