解題・説明
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【判型】大本1冊。 【作者】戸田栄治(玄泉堂・正陰)書。 【年代等】寛政13年(1801)1月刊。[大阪]渋川清右衛門ほか板。 【概要】分類「往来物(産業科・社会科)」。異称『童蒙往来』。目録簽の如き方形の題簽で、青色刷りの飾り罫の中に右から「問屋往来・商売往来・世話千字文」と記すように、この3本を合綴した手本で、いずれも大字・4行・付訓で記す。このうち「問屋往来」は甲谷慶兼作、明和3年(1766)刊『〈甲谷〉問屋往来』と同内容で、本書と同一板木を用いた抜刷本『問屋往来』(玉川大学蔵)もある。内容は、「江戸覃(および)関八州者、惣而小判六拾目之通用也。大坂表者、諸大名之仕送…」と筆を起こし、江戸・大坂・京都・長崎における相場・両替状況、廻船と相場、異国の器材・本朝の名物をめぐる取り引き、容量・重量の見分け、納屋貸・蔵鋪はじめ、問屋の活動に要用の事柄を記したうえで、問屋業に携わる者の心得にも言及した往来物。また、「商売往来」は堀流水軒作、元禄7年(1694)刊『商売往来』と同じで、商人の日常語や帳簿、商取引、商品の名称とともに、若干の商人心得にも触れた往来物(詳しくは、498「商売往来」を参照)。さらに、「世話千字文」は桑原空洞作、享保2年(1717)刊『世話千字文』と同じで、内容は、『千字文』形式(漢字4字1句、全250句1000字)で社会生活全般にかかわる語句を集めた往来物。本文は「鳳暦賀慶、御代泰平、何国静謐、自他幸甚、市店交易、廻船運送、荷物米穀、駄賃員数…」で始まり、商売、普請、相続、徳目、婚姻、交際、人倫、師弟、装束、犯罪、交通、消息、観光、神社仏閣、宗教、病気・養生、公務等々に関する事柄を記し、最後に幕府の仁政を讃えて「千秋万歳」と結ぶ。以上3点を合本したもので、複数ジャンルにまたがるので、合本科往来と見なしてもよい。 【備考】本書を一名「童蒙往来」と呼ぶのは、文政6年(1823)刊『当流手形鑑』([大阪]河内屋平七板)や、天保6年(1835)求板『〈戸田〉庭訓往来』([大阪]河内屋喜兵衛板)等の広告によるが、後者には「童蒙往来、戸田玄泉堂直筆、全一冊。此本は、世に行はる『問屋往来』『商売往来』『世話千字文』、此三品を集合(あつめあわ)して「童蒙」と号(なづ)く。誠に天下第一の手本用なり。求習ふ人、必らず筆才を得」と記す。書名が長いため、書肆が便宜的に付けた書名と思われる(本書で実際に「童蒙往来」の題簽を付したものは見つかっていない)。(小泉吉永 記)
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