解題・説明
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【判型】折本1帖。 【作者】尊円親王書。二品親王(尊朝法親王カ)識語。新藤貞栄跋。 【年代等】鎌倉中期作。寛文7年(1667)2月跋・刊。[京都か]紙屋利兵衛板。 【概要】分類「往来物(古往来)」。『百也往来』は一般に「雑筆抄」「雑筆集」「雑筆往来」と呼ばれる往来物で、消息文に頻用される短句を収めた古往来。本文中に「也」の字が頻出するため「百也往来」とも呼ばれる。写本間で短句数や文言の異同が著しいが、一般的に「昨日鞠会希代勝事也。見物貴賤称美之前代未聞也…」と起筆して、鞠の会、客人の待遇、公務課役についての心得、訴訟を裁く心得、不埒な臣下の処置、処世の心得、叙任・叙用、奉行人の心得、酒席の心得、遊戯・奢侈、契約実行、霖雨と蟄居、同遊同行を求める、近頃になって風儀頽発、王威凌夷、己の得分を第一とする、民烟衰微、警察力強化の必要、反逆・強盗の横行、服罪後の措置、勧賞・昇進、処罰、不学者の不幸、学習の態度、養老、通信、交際、会合、旅行、手紙、財政の精算、建物修理の要、農耕、貿易、狩猟漁業、神仏信仰、祖先崇拝、一族親和、本書編纂の動機などを主題とした短文を連ねるものである。このように、本往来は主として武家の社会活動ならびに日常生活に関わる短句の集成で、当代社会の明暗両面を記述するのが特徴である。 【備考】古写本は、ほとんどが『雑筆往来』または『雑筆抄』と題するもので、鎌倉後期写本から現存し、以後、江戸初期にかけて相当数の古写本が伝わる。また、古刊本は慶長5年(1600)刊、[長崎]日本耶蘇会板が最古。なお、底本跋文では「有百箇也字故、名之号百也…」と名称に由来に触れるが、ちなみに底本本文(識語・跋文を除く)に「也」が登場するのは70回である。(小泉吉永 記)
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