解題・説明
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【判型】大本2巻2冊のうちの上巻のみ。 【作者】武藤某(武藤西察)書。 【年代等】万治3年(1660)1月刊。[京都]秋田屋平左衛門板。 【概要】分類「往来物(消息科)」。上巻に四季にちなんだ月々の往復文24通(それぞれ往復書簡で差出人・宛名人を対応させる)、下巻に諸用件の手紙を主とする29通(仮名文8通を含む。文面中心で日付や差出人・宛名人を全て省略)を収録した往来物。本文を大字・5行・付訓で記す。近世の消息科往来の先駆の1つで、仮名文の書止に「恐々」を用いた例文(下巻第4状)など近世初期以後消滅する古態が残存する点で重要であろう。これらの仮名文には、「かしこ」「かしく」の双方を用いるなど過渡的な傾向も見られる。また、下巻には類語集団(畑物・楽器・魚類)を含む例文を数通含むほか、本文中に「いろは」や「数字」も掲げる。巻末に、本書の筆者について「生産東海尾陽、武藤氏書」と記す。また、上巻扉絵の手習いをする稚児の図も武藤氏によるものと考えられるが、寛文元年(1661)刊『女筆往来』の扉絵および本文の筆跡と酷似するため、『女筆往来』(寛文板は「たけさと」筆と明記)も武藤氏筆。 【備考】底本裏表紙見返に「当本は上巻のみにて遂に下巻の刊行は有らざる様なり…」と記すが上下2巻の完本が謙堂文庫(現在、東書文庫に移管)に存在する。ただし、2巻本であっても上巻末尾に刊記を記すため、最初は上巻のみの単行本だった可能性もある。なお作者名(武藤西察)については、母利司朗「往来物作者の自筆手本巻 ─筆工の文化的階層をめぐって─」(京都府立大学学術報告. 人文 (66), 35-48, 2014-12)による。(小泉吉永 記)
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