解題・説明
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【判型】半紙本1冊。 【作者】竹本染太夫章作。 【年代等】江戸後期刊。[大阪]綿屋喜兵衛板。 【概要】分類「往来物(産業科)」。堀流水軒作・元禄7年(1694)刊『商売往来』の本文に浄瑠璃の節まわしを施した往来物ならびに浄瑠璃・義太夫本。本文を浄瑠璃本風に大字・5行・付訓で記し、節付けを付す。浄瑠璃の稽古をしながら、商売の基本語を習得させようと試みた異色の往来で、謡本形式で諸知識を綴った享保8年(1723)刊『便用謡』と同様の趣向である。本書序文は、宝暦板で「浪花某」の記載を付した序文と同文であるが、本書の編集意図にも触れているので、以下に全文翻字(現代仮名遣いに改め)しておく。「それ、音曲の道は、輪に入りて輪に入らず、輪を離れて離れざらめ共、節に節なし、人に節あるは、いと面白しとや、古人の言いおける。六芸の中に、すぐれたるは音曲の声なり。あるは月待ち、日待ちにも、何となく人の耳を悦ばしめ、千歳の思いを延ばすなむ。されば、浄瑠璃の作は文にあらず、言葉にあらず、おしのつかいの節はその様によるべきものを。凡そ商売往来は世上に持ち扱う文字をつづる集なるに可なるかな。此文章をうち(つ)してその身の稽古にもならむとてや、自然と幼稚の珍事、初学の便りともならむものか」。 【備考】本書は宝暦12年(1762)4月初刊([江戸]鱗形屋孫兵衛ほか板)で、底本は青色刷りの原表紙を有する江戸後期刊本である。この両者は、体裁から本文の字配りまで全くの異板で、底本の序文には「浪花某」の記載がない。(小泉吉永 記)
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