解説
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この絵伝は、天竺、百済、日本と三国伝来の善光寺如来の縁起説話を絵画化した掛幅絵で、善光寺信仰の布教や絵解きに用いられたものです。 本絵伝に描かれる人物や建物は、親しみやすさを感じさせる表現となっています。伝統的な説話画にみられる大和絵様式とは異なり、筆致、彩色等の点から奈良絵風と評される新しい様式の作品で、絵画史の上でも変革期における作品と位置づけられています。庶民の信仰心を促す縁起絵などにふさわしいものとして受容されたものと考えられています。 中世の善光寺如来に係る絵伝は現在9点が知られています。そのうちの1点が本絵伝であり、希少性及び重要性を有する室町時代の資料です。 第一幅上部の須弥山、第二幅中央右の網でひきあげられる一光三尊仏の絵相、第三幅下の善光寺伽藍の景観などは、他の絵伝に例のない独特な図像で描き、表装の痕跡、奈良絵風の画風とともに、本絵伝の独自性を示すものです。 また、各幅の絹継ぎの面ごとに傷みの情況が異なることから、三つ折にしてまるめて携行したことがうかがわれ、単に絵画資料ということだけでなく、善光寺信仰に関わる側面をも実証的に伝えていることは本絵伝の価値を重層的に高めているものです。
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