解説
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善光寺の正月行事に参加する善光寺一山の僧尼職の服飾をはじめとして、頭役(堂童子)を中心とする諸儀礼行事に使用される用具類は、六十余品種目にのぼる。 これらの用具は六月五日の「あやめ渡し」の日に本年の堂童子(当役)から後住(次年度堂童子)に引き継がれるものである。 その中の主なものは、次のとおりである。
①御かわらけ(素焼き盃)三個 ②錫(すず)の徳利(瓶子(へいし))二本 ③灯明台二個 ④枡(ます)(木製)一個 ⑤へき(木製)十一枚 ⑥金塗三方五個 ⑦餅取(黒塗り)一個 ⑧うつしき一枚 ⑨背負子一個 ⑩御からこ入箱大小各一個 ⑪版木大小二個 ⑫御宝印台および箱一個 ⑬唐櫃(からびつ)および挾箱(はさみばこ)各一個 ⑭堂童子用火鉢二個 ⑮堂童子部屋鍵 これらの物件類は、弘化四年(1847)三月二十四日夜、善光寺地方を襲った地震の被害により、一部を残して焼失し、のちに新調されたものである。 この中で特徴あるものとしては「御かわらけ」は大中小の三つ重ねの素焼き盃(土師器・はじき)で、十二月中申の日の御年越(おとしこし)式の当夜、本堂裏の年神堂(現在は御供所(ごくうしょ))で堂童子の引き継ぎ会に使用されるものである。錫の徳利(善光寺御歳宮御瓶子一対朱書)は「ミリン」を入れ、直会(なおらい)に振る舞う。また、堂童子が主に善光寺本堂に参籠(物忌み)したり、諸儀礼行事のときに着用する服装も独特で、頭巾(ずきん)(冠)をかぶり、長素絹(そけん)(麻白織)の長衣のすそを引いて歩む姿は、古代人の生活風俗をほうふつとさせるものである。
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