神領葬祭略式

神領葬祭略式 [目録]


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管理番号 三一
遠山家文書史料番号 九三四
 
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神領葬祭略式
 
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神領葬祭略式
 
 伊勢神宮ニテハ死穢ヲ忌事厳重ナル故ニ神領ノ内ニ
 於テハ人死シタル時死ト云ズシテ病気大切ト云ヒ葬送ト
 云スシテ早懸ト云ヒ来レリ抑死者ヲ死者ト云ズ葬送葬
 送ト云スシテ事ヲ行フハ虚偽(いつわり)詐欺ノ甚シキ神明ニ
 対シテハ不敬父母ニ対シテハ不孝ノ如クナレト決シテサニ
 アラズ旧来ノ流例ニテ触穢(けがれ)ヲ弘ク及ボサス神領ノ
 諸人神役勤仕ノ差支ニナラヌ為ノ法ニシテ是神事ヲ
 
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 重ンズル神忠ヨリ出タル事ナレバ堅ク此法ヲ守リテ
 必他領ノ如キ葬送ノ行粧ヲナスヘカラズ方今復古一新
 明政ノ徳ニ化シテ神領ノ諸民等仏門ノ宗旨ニ預ル事
 ノ神慮恐レアルヲ悟リテ神葬祭ヲ願ヒ出ルヲ許容
 スルニ附テハ其規則ニ亦立ズンバ有ベカラズ然リトテ別ニ異
 ナル新式ヲ設クルニ及バス詮スル所一切僧徒ヲ近ズケズ法
 名戒名ナド云モノヲ附ケズ読経念佛等ヲ行ハズ経帷子
 幡天蓋塔婆等ヲ用ヒズ線香抹香等ヲ焼ズ位牌
 石碑等ニ梵字ヲ題シ蓮華座ヲ彫ル等ノ事ダニセズ
 バ其余ノ事物ハ其郷々ノ風習其家々ノ時宜ニ任セテ
 可ナリ但延喜太神宮式ニ敢テ穢ニ触レ及ヒ素服ヲ着
 セズト記サレタル旧制拠リテ其子ト云ヘトモ素服ヲ着
 セズ[素服ハ麁キ白布ヲ以テ製シタル 凶服ニテ俗ニコレヲ色ト云フ]身分相当ノ礼服ヲ着シテ
 野送ニ従フベシ勿論表向病體ニテ送ル事ナレハ棺ヲ舁(かく)
 者ヲ始メ諸役人トモ白布等ヲ凶服躰物ヲ身着ル
 事ナカルヘシ
 
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 入棺前当人ノ枕頭ニテ嗣子始メ親族男女一同永訣(いとまごひ)
 ノ拜ヲスベシ然シテ入棺シ葬地テ送ルべシ
一当人衣服病中着用臥タル侭ニテ敷物トモニ棺中ニ
 入レ其身相当ノ礼服等ハ臥體ニ副ヘ納ムヘシ必当人
 ヲ裸(はたか)ニシテ沐浴改服等スベカラズ[珠数ノ類スベテ仏具ヲ 棺中ニ入ベカラズ]
 棺 臥棺[俗ニ云 横棺]ニスヘシ材ハ木法ハ柀(まき)木ナレドモ時宜
 ニヨリ他木ヲモ用フベシ坐棺俗ニ堅棺ヲ用フルハ本儀ニア
 ラズ坐棺ハ仏道ヨリ起リタル謂レアリ
 一棺□(おほひ) 布ヲ以テ油単ノ如ク縫合セテ用フベシ[但布ヲ 求ムルニ]
 [力足ラザル者ハ紙ヲ 継合セテ用フヘシ]
一早懸ハ病體ニテ送ル姿ナレハ棺ノ見ヘサルヤウニ乗物
 形ヲ造リ其中ニ棺ヲ納メテ舁行クベシ[但土地ノ例又時宜ニ 依テ古キ乗物用フ]
 ルモ可ナリ又乗物形ヲ造ラザルモノハ棺ニ布或ハ紙ノ□(おほひ)ヲ掛
 ケ箯輿ニ乗セテ送ルベシ彼神輿ニ似タルモノヲ俗間ニ
 用フルナドハ大ニ非ナリ但乗物形ノ中ニ棺ヲ納ル時ハ□(おほひ)ニハ及バサルナリ
            ○便輿ハ和名抄ニ編竹木為輿也和名阿美
以太トアルガ本名ナレト転シテアヲダト唱ヘ又略シテヲダト唱フ実ハ
手負ナトヲ乗セユク仮輿ニテ葬送ノ具ニアラサルナリ
 
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一松明 水器 糧筒 [清酒ト洗米トヲ 土器ニ盛]弓矢[丸竹ヲ以テ作 矢ノ羽ハ紙ヲ用フ]
 右等ノ具ハ前以テ墓地ヘ送リ置テ可ナリ此品々ハ仏具ノ
 物ニアラズ又葬送ノ式ニ限ラズ旧キ移従[俗ニ云 家移リ]ノ式ニ水
 火穀物ヲ持行クト同ジク又弓矢ハ行旅ノ守衛ニ持行ク
 ト同シキ事ニシテ旧儀ノ存スル所殊勝事ナレバ必廃スベ
 カラス
一葬地新ニ撰ヒタル地ナラバ必地神祭ヲ行ヒテ[神酒洗米 等ヲ備フベシ]
 後ニ拡ヲ掘ラシムベシ旧キ墓地ナラバ其儀ナクトモ可ナリ
 [但拡ヲ掘リ土ヲ掛クル等ノ事ハ必穢人ニ ナサシメ決シテ良民ハスル事ナカレ]葬地ニ到ラハ親族
 ノ者一人其ノ身ハ葬地ノ外ニ在テ榊枝或ハ白木ノ串ニ紙
 垂(だ)ヲ附タルヲ持テ棺ニ対シ一拝シ左右左ト振リ蹲踞(そんきょ)シ
 テ読上ル告辞(のりと)左ノ如シ
  天津罪乎国津罪乎毛祓清米弖比奥津城尓體(から)波
  隠世登其霊魂波朽世須消延須神乃随意(まにまに)善所得弖
  鎭利坐世登称辞(たたへごと)志弖葬留止白須
 右読畢リ一拝シテ退クベシ
 
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  穢人等棺ヲ拡中ニ降シ土ヲ掻下シテ埋葬セバ土ヲ高
  ク盛上ケテ其廻ニ板垣或ハ竹垣ヲ作リ[垣用ノ木竹縄等ハ 前以テ送リオク]
  其前ニ木標ヲ建テ清酒洗米水等ヲ供シ其傍ニ彼
  持来シ松明ト弓矢トヲ建置クベシサテ其垣搆ノ内外ニ
  榊又ハ常葉木ノ枝ヲ繁ク差立ツベシ[榊枝是又前以テ 葬地ニ送リヲク]
一 木標ハ如此造リテ
    職位ナル者ハ 職位姓名之墓
    職位ナキ者ハ 姓名之墓
    夫ヲ持タル女ハ何某妻名之墓
    夫ヲ持ザル女ハ何某女名之墓
  右ノ通ニ書スベシ院号及ヒ居士善士信士大姉善女信女又
  禅定門禅定尼等法名ハ勿論スベテ謂レナキ潜妄(せんもう)
  諡号ナト書スベカラズ後日ニ垣ヲ取リ墓ヲ修スル時木
  標ヲ石碑ニ改ムベシ碑面ニハ最初木標ニ書シ タルカゴトク
  何某之墓ト刻スベシ但裏ニ年月日ト年令トヲ刻シ又父ハ
           何某母ハ何某女ト云コトヲモ刻スベシ
一 葬事訖ラハ喪主及ヒ親族等墳墓ヲ拝スベシ草履ハ
 
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  墓地ヲ出ル時脱捨テ洗足シテ家ニ入ルベシ
一 位牌ハ白木作リニシテ
   職位アル者ハ 職名姓名霊位
   職位ナキ者ハ 姓名  霊位
   女ハ     姓名  霊位
  如此書スベシ但シ女ハ夫ノ姓ヲ称セズシテ父ノ姓ヲ称スル法ナリ
  但位牌ノ裏ニ年月日ト年令トヲ書シ又父母ヲモ書スベキ事墓碑ノ條
  ニ云カ如シ
一 孝子順孫タル者忌中ノ間ハ日々墓参怠タルヘカラズ新葬
  ノ地ハ鳥獣ノ害ヲ慮リテ心ヲ用フル事肝要タルベシ
一 当日ヨリ五十日ノ間霊前ニ榊枝榊ニ限ラズ常葉ノ木ノ枝時ノ花ヲ
  瓶ニサシタテ清水飯酒干魚野菜海藻菓子等又存生
  ノ時ニ好ミシ品ヲ供スベシカクテ百箇日ニ当ル日又殊ニ祭
  ヲ修スベシ[生死トモニ七日七夜ヲ数トスルコトハ神代ヨリノ例ナリ其七日 ヲ猶厚クシテ七重衣タルガ所謂四十九日ナリ右四十九日ノ]
  事ハ延喜太神宮式ニモ載セラレ又漢籍ニモ七七四十九日百箇日ノ事ヲ
  載セタリ仏事日数ノミニアラサル事知ルベシ又神霊ヲ祭ルニ時ノ花ヲ以テ
  スル事神代紀ニ見エタリ
一 仏道ノ祭ヲ廃スルウヘハ酒肉ヲ禁ズルニハ及バサレトモ悲哀
 
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  謹慎ノ時ニ当リ好ンデ生魚ヲ煮焼シテ霊前ニ供シ親
  族朋友ヲ会集シ美味珎饌ヲ設ケ飽マデ魚肉ヲ食ヒ
  酒宴遊興ニ似タル振マイヲナシコレヲ神葬祭ナリト思フ
  ナトハ甚シキ心得違ニテ孝子順孫ノ道ニアラズヒタスラ
  慎終追遠ノ念ヲ主トシテ誠信ノ礼奠ヲ行フベキナリ
一 霊祭ノ事常ニ怠ルヘカラサル事ナカラ毎年祥月正当日ニハ
  殊ニ手厚ク食膳ヲ設ケ菓子花ノ備ヘ物等心ヲ尽シテ
  祭り又墓所ニ参リ時ノ花清水等ヲ手向テ恭敬礼
  拝スベシ抑死セル日ヲ忌日ト云フハ何事モ此日ヲ忌テ用ヒ
  ザル故ナリ忌ト云フハ慎ム意ナリ此日ハ其死セル先祖父母
  ノ事ヲ深ク思ヒ其死セル時ノ心持ニナリテ万事ヲ怠慎
  ム事ヲ専一トスヘシ
一 スベテ霊祭ノ膳具ニハ塗物ヨリモ白木陶器土器ヲ用フル方
  清潔ニシテ宜シキナリ
一 年忌ノ事皇国ニテハ旧ク一周忌ヲ果ト云ヒテ殊ニ祭儀
  ヲ行ヒ漢土ニテハ一周忌ヲ小祥ト云ヒ三年ヲ大祥ト云フノミ
 
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  其余ノ何年忌々々ト称ズルハ儒道ニモ仏道ニモ一切無
  キ事ニテ全ク皇国中古ヨリノ風儀ナカラ先祖父母ノ為ニハ
  随分手厚キ事ナレハ世ノ習ニ随ヒテ此祭ヲ行フモ孝子
  順孫ノ道ト云フベシ[近来既ニ神地ノ人等此年忌ト云フ事仏道ト心得 テ追祭ト云更ヘテ称スルモアリ年忌何ノ仏詔タル事カ]
  アラン今其年数ヲ斟酌シテ祭年ヲ定ムル事左ノ如シ
    一周祭 三年祭 十年祭 二十年祭
    三十年祭 四十年祭 五十年祭
  以上七祭ノ後ハ五十年ヲ度トナシ百年祭百五十年祭二百年
  祭ト年ヲ追ヒテイツイツマデモ子孫ノ者謹慎恭敬ヲ尽シ
  テ追遠ノ祭ヲ行フヘシ
  先祖父母ノ霊ヲ祭ル事忌日ハ云フニ及ハス春秋両度厚ク
  行フベシ但春秋ノ祭ハ吉祭ニテ彼忌日ニ祭ルト其意同
  ジカラズ然レハ春ハ正月元旦二日三日以上三箇日神祭ニ准シテ
  鏡餅其余神供同物ヲ備ヘ祭リ秋ハ七月朔日二日三日
  以上三箇日飯或ハ洗米餅酒干魚野菜海藻瓜菓子等ヲ
  備ヘ祭ルベシ右春秋両度ノ外毎月朔望或ハ五節供
 
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  [正月七日 三月三日 五月五日  七月七日 九月九日]
  又ハ年暮其余其家ニ吉事アリ
  テ神祭ヲ行ノ日ニハ必祖先ヲモ祭ルベシ又時ノ新物及ヒ遠
  来ノ珍物等モ人必祖先ノ霊ニ供シテ後ニ家内ノ者コレヲ
  食フベシ皇国ノ古例先祖祭ニハ二月四月十一月ヲ用フル
  事ニテ[二月十一月ノ春日祭 四月ノ平野祭ノ類]今モ此式月ニ祭祀ヲ行フ事
  諸国ニアリ然レトモ是ハ氏ノ祖神祭ニテ父母代々ノ諸霊
  ヲ祭ル儀ニアラズ又其祭法モ普通ノ霊祭ト同様ニハ
  論シカタキヲ強テ此氏神祭ノ儀ニ倣ワントスルノ族モアルハ
  神道ヲ修セントシテ却テ神道ノ軽ンズルナレハヨクヨク心得テ
  報本追孝ノ中道ヲ択フベキナリ
   右ハ正史実録ニ所載ヲ通考シ古儀ニモ不違今行フニモ
   宜キヲ撰ビテ記ス所ナリ其典據ノ如キハ別ニ記シテ
   事證ニ備フベシ
  平日朝暮拝
  遠都御祖乃御霊代々乃祖等親族乃御霊総天
  比祭屋尓鎮座御霊等乃御前尓慎美敬比家尓身尓
 
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  禍事有世受夜乃守日乃守尓守幸比宇豆那比給比
  寿命長久子孫等弥益々尓令栄賜比御祭善志久
  仕奉志米賜栄登祈白須事乃由乎平祁久安良祁久聞食世登畏美
  畏美白須