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<翻 刻>
管理番号 三九
遠山家文書史料番号 九三八
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神葬祭仮規則
凡ソ人ノ子タラン者父母齢五六十歳ニモ至ラハ請テソノ肖像ヲ
写シ[或ハ詩ニテモ歌ニテモ 得意ノモノヲ書ス]置ヘシ年老病ニ罹リテ人モ吾モ危篤
カラント思ハム時ハ家ニツキ身ニツキ心得トセム事トモヲ尋問ヒ
遺言アラハ皆記シ置ヘシ[病者モ其家ニ霊魂ヲ留メテ吾子孫ヲ シテ御ニ君ニ忠ヲ尽サシムル守神トナ]
[ラム事ヲ常ニ 思ヒ定テアリヌヘシ]息絶ントセハ嗣ヲ始親族枕辺ニ集ヒ水ヲ進リ
テ永訣(いとまごい)スヘシ 己ニ息絶ナハ手足ヲ掻ツクロヒ其上ニ衣服ヲ
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覆ヒ側ニ脇差ヲ置枕上ニ机ヲ設ケ水ト洗米ヲ備エ燈火ヲ
供スヘシ皆々一応ノ禮ヲナシ其臥セシメシ廻リエ屏風ヲ立親族代
ルカワル其側ヲ離ル可ラス備霊璽ヲ作リテ霊代ヲウツセ
父 氏尸名[翁 君]之御霊 [年六七十ニ至ラサレハ翁トハ記スヘカ ラス]
母 氏[何子 何女]刀自之御霊 [女ハ夫ノ姓ヲ称セス父ノ姓ヲ称スル法 ナリ]
兄弟 氏尸名之霊 家督ヲ継タラン人ハ君ト書スヘシ
姉妹 氏[何子 何女]之霊 世代ヲ持タザルハ戸主ト称ス可カラス
謹而白左久[氏名 始名]之霊乎此礼乃霊代尓留米賜比弖
子孫乃継々永々久ク御察亨坐万世止白須
一汚穢触レサル者ヲシテ早ク神棚を封スヘシ
一棺ヲ作ル用材ハ柀椹ノ木ヲ用ユヘシ是神代ノ御掟ナリ
[此木ナクハ松ノ木ナト用ユ可シ 杉桧ノ類用ユベカラス]板ノ厚サ一寸二三分ヨリ五分位ニシテ長サ
其人ノ丈ニ応シ臥シタル侭褥ト共ニ収メラルルヤウニスヘシ
一死者ノ衣服改ムヘカラスト雖モ其病症ニョリ甚タ汚ルル事アリ
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子弟トシテ忍ヒサル事ナレハ其身近キ人カ其家ニ親ク由アル者
ヲシテ改メシムヘシ
一沐浴スル事ハ死体ヲ裸ニシテ其人ヲ恥シムル道理ナレハ然ル事
ハスヘカラス但面上手足ダノアラハナル処ハ巾帨(てのごひ)ヲ湿シヨク拭フヘシ
一剪爪理髪終テ其身ノ盛服ヲ着セシメ棺内ニ納ムヘシ刀剣
ハ其形代ヲ作り常ニ手馴ノ品ドモ添納メ中ヲ動ヌヤウ茶
或ハ煽炭ナトニテ堅ク詰メ釘ニテ固ムヘシ[合縫メニ松脂 ヲヌルヘシ]次ニ布又ハ
紙ニテヲナシ一間ニ移シ薦ヲ敷キ其側ニ榊一本[棺前ノ作法 スミテ後墓]
[上ニ立ル 科ナリ]其前ニ机ヲ置キ浄水一椀散米榊[丈三尺位木綿ト麻 トヲ付ル榊ナキ時ハ]
[ヒサカキ樫其外 常磐 木ノ類何ニテモヨシ葉付ノ笹ニテモヨシ]ヲ備ル燈火ヲ置[柩ノ前ニ 右ノ祓]
[具ヲ置クハ亡者ノ罪穢ヲ 解除スルノ意ナリ]偖霊前ニ酒饌ヲ供フ[飯汁魚蔬 藻菜酒菓]
酒ハ陶器ニ盛ルベシ
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用 具
一松明
一銘旗 [氏尸名之柩 姓名之柩]
一箒 竹二テ作ル
一新薦 二枚[但一枚ハ棺ヲスエ一枚ハ拝礼ノ用]
一位牌
一机 大小二
父母並其家ヲ継タラン人ハ図ノ如ク角ニ作ル自余ハ板ノ厚キ
ヲ用フ
一水器
一膳 白木ニテ作ル
一榊 時ノ花
一注連縄
一葉付竹 四本 略シテ二本ニテモヨシ
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一燈火台 二
一薪 [松ノワリ木門口墓所 両所ニ用ユ]
出棺之次第
初条ニ記セル如ク棺前ニ燈火酒餞ヲ備ヱ置日没(ひいり)ナハ時刻
ヲ計リ喪主祭文ヲ読ム
謹而白左久哀伎可母痛[忌伎 可毛]父止坐奴留姓氏実名乃君
波毛病面留々事无久今年年号月日剋幽冥(かくりよ)侶罷
給[比志 波]甚毛悔之久口惜伎事[尓奈 毛]然[礼杼 毛]今為(いませんす)方[毛那介 礼婆]
定理乃随尓御塋域(はかところ)尓奉葬(かくしたてまつる)[止毛 氐]此家乎奉出乎
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平久安久聞食氐後(うしろ)毛軽久出立世給閉止恐美恐美毛白
又
姓実名乃柩乃御前尓姓実名慎美敬比天白左久汝此乃
内由病由臥(えやし)坐之力之極美種々奉療(いやしまつり)[志可 杼毛]終尓此乃
顕世(うつしよ)乎罷給[比志 波]甚毛悲ク口残伎事[尓奈 母]然[礼杼 毛]今
為方[毛奈計 礼婆]世乃理(ことわり)乃随(まにま)尓奥都城(おくつき)尓奉葬[止也 氐]此乃家(や)
内(ぬち)乎奉公乎平久間食弖後毛軽久出立世給閉止白須
此二段ノ向上ニ挙ルハ父母尊長ニ白シ末ニ記スハ兄弟姉妹ナ
トニ告ス詞トシルヘシ
一喪主祭文ヲ読一拝シテ退ク続テ親族次第ニ拝礼ナシ
終リテ静ニ枢ヲ出スヘシ
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葬送乃次第
先 庭火
次 松明
次 箒
次 銘旗
次 散米
次 賢木
次 位牌 喪主持之
次 饌 其家二親シク出入スル婦女ナトニ持シムヘシ
次 柩
次 大小
次 松明
次 親族 銘々サカキ時ノ花ヲモ持
次 従僕
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次 吊ノ人
用物献供ハ別ニ送ルヘシ
一枢ハ足ノ方ヲ先ニメ舁ベシ葬地ニ至ラハ薦ヲ敷枢ヲ中央ニ置[足ノ 方ヲ]
[拝スルヤウニ 直スヘシ]諸道具ヲ立酒饌水菓花葉ヲ供エ左右ニ庭火ヲ
タキ喪主治親族並吊ノ人ニ至ル迄各蹲踞セシメ此時喪主起
而正面ニ向ヒ拍手拝葬詞ヲ読
天都罪乎毛国津罪乎毛祓清米氐此奥津城尓体(から)波
隠世杼其霊魂波朽世受消受神乃随尓善所得弖鎮利
坐止称辞之弖葬奉留正白須
又
姓実名乃御墓乃御前尓謹美敬比乃所哀
千代乃御墓所止奉定ス奉仕状乎平久安久聞食弖常盤
尓動伎無久鎮坐氐子孫乃継々長久久久参奉仕之米給倍止
恐美母申須
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此ハ例文ヲ記スノミ喪主心ニ任スヘキナリ
右終リテ一拝シテ退次ニ親族拝礼出棺ノ時ノ如シ一同ノ拝礼終
ラハ喪主吊人々江一礼スベシ夫ヨり柩ヲ土中ニ降シ土ヲ掻下シ此
上ヲ堅ク築立垣ヲ結ヒ木標ヲ立[姓名之墓 姓名妻之墓]供物ヲナシ榊或ハ
時ノ花ヲ指建ヘシ
サテ葬事畢ラハ河頭(のほとり)ニ至リ身滌(そぎ)スヘシ河水ノ便利ナラサル所ハ
路ノホトリニ浄水ヲ出シ置塩ト散米榊紙垂付タルヲ持汚ナキ
人ヲシテ解除セシムヘシ[草履ヲ脱捨手足ヲ洗ヒ清メテ祓事ヲウク ヘシ]
一此里ノ俗被冠リト云テ忌掛リノ婦女子白衣ヲ被キ葬事
ニ従フナリ喪祭ハスベテ親族男女打集ヒ為ス事ナレハヨロシキ
事ナルヘシ
一喪主膳据[古コレヲ 御食人ト云]棺持[柩ヲ 舁モノ]イロ素服ヲ着ル事旧ニヨルヘシ
一出棺済タラハ塩水散米榊[シデ ヲ付]ヲ持テ家内ヲ祓ヒ清メ然シテ後
霊棚ヲ飾霊牌ヲ祀ル事図ノ如シ
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12 画像(翻刻付)
霊祭之次第
一葬送終リテ家ニ還ラハ図ノ如ク霊檀ヲ設注連縄ヲ引神水ヲ置
草木ノ花ヲ立位牌ヲ安置シ酒饌ヲ供スヘシ当日ヨリ五十日ノ間此
ニニ祭ルナリ殊二八日八夜ノ間ハ親族寄集ヒテ厚ク奠リ其人在
世ノ事ナト語り合ナケキモシ忍ヒモスヘシ是神世ノ遺風ナリ
神領喪祭略式云生死トモ七日七夜ヲ数トスル事神代ヨリ例ナリ云云
伊邪那美命御子生又神避玉ノ時ノ事ナトヲ云ニヤ覚束ナシコハ
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神葬私記ニ云神葬ノ事ハ既ク[古事記 神代紀]天若日子条ニ云云如此行定而日
八日夜八夜以遊也(をあそびたりき)ト云ルノ神葬ノ事ノ物ニ見ヘタル初メナルヘシ今神
葬ヲ行トスルニ如此昭々タル明文ヲステテ何ニカヨラン故ニ今ハ神葬
私記ノ説ニ従フナリ
此後ハ十日十日ヲ節ト定メテ五十ケ日迠ノ祭リアリ五十ケ
日ノ祭り終りナハ霊壇ヲ撤メ先霊ニ合セ祀ルベシ
一霊璽ヲ先霊ニ合セ祀ル時ハ酒饌ヲ合嘗(なめ)ニ備ヘテ祭ルヘシ
其祭詞
遠都御祖代々乃祖等乃御前尓畏美畏美毛白左久某乃
御霊代乎此乃灵舎尓奉移止之氐奉留種々乃御饌物
乎相嘗尓聞食相宇弖奈比坐氐子孫乃継々禰遠長
久御祭令奉仕給倍止白須
一此日神職ヲシテ家ノ大祓ヺナシ神棚ノ封ヲ解始テ神前ヲ
拝ス一周忌日ヨリ産土神ヲ始諸社ヲモ拝シ奉ルナリ
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家ノ大祓ヲ修スルニハ床上祓所ノ大神ノ神巫ヲ設酒饌其
外榊ナド常ノ如ク奉り大祓ノ詞ヲ読シメ又塞神三柱ノ
大神ヲモ祭ル也コハ神職ノワザナレハ大畧を云ノミ
一百ケ日ノ祭り五十ケ日ノ祭リニ准ス
一神領喪祭畧式云年忌ノ事皇国ニテハ旧ク一周忌ヲ果ト云ヒテ殊ニ
儀ヲ行ヒ漢土ニテハ小祥ト云ヒ三年ヲ大祥ト云フノミ其余何年忌
々々ト称スルハ儒道ニモ佛道ニモ一切無キ事ニテ全ク皇国中古
ヨリノ風儀ナガラ先祖父母ノ為ニハ随分手厚キ事ナレハ世ノ習ニ
随ヒテ此祭ヲ行フモ孝子順孫ノ道ト云ヘシ今其年数ヲ斟酌シ
テ祭年ヲ定ムル事左ノ如シ
一周祭 三年祭 十年祭 二十年祭
三十年祭 四十年祭 五十年祭
以上七祭ノ後ハ五十年ヲ度トシ百年祭百五十年祭二百年祭ト
年ヲ追ヒイツマデモ子孫ノ者謹慎恭敬ヲ尽シ追遠ノ祭ヲ行
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フヘシトアルニヨルベシ
霊祭令迎之詞
遠津御祖代々乃祖等乃御霊[幾 座]此清米多留斎床尓天翔
降坐[万志 氐]例奉仕御祀享坐[万世 止]畏美畏美白須
同祭文
謹而白左久姓名今年年号月日―霊乃何年乃
御祭仕奉止今供奉流御酒御饌乎始米種々乃物共平久
安久受左世給閉阿奈哀[伎可 毛]阿那想此忍[波留々 加毛]
先 霊璽ヲ設 [清浄一間ヲ点シ案ヲ立新菰ヲ敷後ロへ屏風ヲ繞 ラシ榊ヲ立[シデ ヲ付]時ノ花ヲモ供ス]
次 霊迎之詞
次 酒饌ヲ備
次 玉串ヲ捧
次 祭文 拍手拝
次 親族各玉串ヲ捧 同
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次 墓参
次 饌ヲ撤ム
次 霊送之詞
次 直会 [先ニオサメタル御伎洗米又ナホラヒニ進メリシナジナノモノヲ 祭主始親族男女一同打寄イタダクベシ]
一霊代ハアラハニ祭ルヘカラズ葬送之條ニ記サル如キ祠又ハ寸尺ニ応ジ
箱ヲ作り納メテ祭ルナリ必ス顕ニ条ル事勿レ
一年祭常ノ霊舎ニテ為ストキハ送迎ノ詞ナクテヨロシ
葬地葬之次第
一新ニ塋域(はかところ)ヲ撰ハントセハ予メ其土地ヲ定メ神職ヲシテ其地ヲ掃
ヒ清メ蓆ヲ敷案(つくえ)ヲ立地主神ノ神坐ヲ設[神坐ハ案上ニ榊ヲタテ 垂ヲ附ヒモロキトセヨ]
奉幣酒饌魚蔬菓ヲ供へ祭ノ作法常ノ如クシテ其諄辞(のりと)
此乃地乎宇斯掃坐(うしはきいま)須大神乃大前尓白左久遠尓某官位(つかさくらい)
姓名乃為尓新尓奥津棄尸(すくへ)袁為営弖(いとなまんとして)御伎御饌幣帛
備奉弖祈白須状(さま)乎聞食弖此乃奥津城尓長久
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久久災亢久平加尓令在賜畏美母白須
又
此所袁宇斯佩坐須大神乃御前尓白左久今何某實名
賀奥墓所袁此所止定侍此奴此状乎安計久聞食世止奉
留御祭袁受左世給比長久久久平加尓令在賜倍止恐美恐
美母白須
一此ハ予テ為シ置ヘシト蚩モ其時ニ臨穢ニ触サル人ヲシテ行ハ
シムルモ可シ然レトモ成ル限ハ祖先ノ墓ニ並フヘシ其時ハ地祭ニ及ハ
サルナリ
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喪祭ニ付心得テ在ルヘキ条々
要録
一葬送之式ハ其身存生之格ニ応シテ御制アリ又貴キハ賎キニ同
シテ賎キハ貴キニ同シキ事ヲ工スト令ニモ出タレハ其家ノ有無ヲ
考へ質素ノ品ヲ用ヒ無益ノ飾有ヘカラス
一佛ノ道ヲ廃スルウヘハ酒肉ヲ禁スルニハ及ハサレトモ非哀謹
慎ノ時ニアタリ好デ生魚ヲ煮焼シテ霊前に備へ親類朋友ヲ
会メ美味珎饌ヲ設ケ飽マデ魚肉ヲ食ヒ酒宴遊興ヲ似タル
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振舞ヲナシ是ヲ神葬祭ナリト思フナトハ甚シキ心得違ニテ
孝子順係ノ道ニ非ス一向(ひたすら)終ヲ慎ミ遠キヲ追フノ念ヲ主トシ
テ誠信ノ礼真ヲ行フヘキナリ
一先霊ヲ祭ルニハ墓所ヲ以テ本トスヘシ然レトモ毎日ノ拝礼又供物
杯ハ墓前ヱハ致シ難キコトナレトモ居宅中ニ霊屋ヲ設ケ注連ヲ
曳位牌ヲ祭リ毎朝神棚ヲ拝スルヨリ続テ是ヲ拝スヘシ若シ
身ニ穢アリテ神明ヲ拝スル事ハ欠クルト云トモ先霊ヲ祭ル事ハ
欠ヘカラス故ニ神明ト同棚ニ祭ラズ別ニ霊屋ヲ設クヘキ也又先霊
代々ノ中ニモ父母ハ殊更二親シク祭ルヘシ総テ祭ヤウハ其身ノ
分限ト家ノ貧福ニモ依ル事ナレハ一様ニ云ヒカタシトイヘトモ日々食
スルモノノ清キ品ヲ備ヘ時ニ取テ珎ヲシキモノ抔ハ必ス備ナウヘシ
祭リヲ重クスルトキハ式ヲ立祭ルヘシ是又上中下ミナ分ニヨリテ
差別有ヘキ事也云云家内並未会セル親族ノ婦女ナド取運
ハセテ供物イタシ祭文玉串抔形ハカリノ事ニテモ取行ヒ実意ノ
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祭ヲ勤ムベシ玉串ト云ハ榊ヲ枝ニ麻ヲ取付タル也榊アラヌ時ハ余ノ
樹ニテモヨロシ又小竹ニヌサヲ取付テモ供フルニ何ニモ拝スルトモソレ
ヲ机ノ上ニ置テ手ヲ拍テ洋ム事ナリ
一霊祭ノ事常ニ怠ルヘカラザル事ナカラ毎年祥月正当日ニハ遊宴漁
猟ヲ慎ミ殊更謹慎恭敬ヲ尽シ酒饌花葉ヲ供祭典怠ルヘ
カラス又墓所ニ参り時ノ花清水等ヲ手向テ恭敬礼拝スヘシ
抑死セル日ヲ忌日トイウハ慎意ナリ此日ハ其死セル先祖父母ノ
事深ク思ヒ其死セル時ノ心持ニナリテ萬ノ事ヲ忌慎ム事ヲ専
一トスヘシ
一スベテ祭器ハ清潔ヲ尊フ事ユヘ白木ヲ用ル事ナレトモ実ハ具家ノ
有無ニヨル事ナレハ有乘ル器ヲ清メテ用ユルモヨロシ然レトモ酒食ノ
器ナトノ費ヲ省キコレヲ祭器ニ用ル時ハ何ノ子細モアララサル也
一先祖父母ノ霊ヲ祭ル事忌日ハ云ニ不及春秋両度厚ク行フ
ヘシ但春秋ノ祭ハ吉祭ニテ彼ノ忌日ニ祭ルトハ其意同シカラズ春ハ
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正月元日二日三日[以上 三ケ日]秋ハ七月朔日二日三日[以上 三ケ日]ヲ以テスヘシ尤年
頭ニハ皆神明ヲ祭ル事ナレハ夫ニ准シ鏡餅飾物等至シ神酒洗米
等備フベシ七月ニハコノ神明ノ祭ル式ナキニヨリ先霊ヲ祭ル一筋ナ
レハ殊更ニ心ヲ尽シ祀ルヘシ此外七節[正月七日十五日三月三日五月五日 七月七日十五日九月九日]
年越毎月朔望元服婚姻昇進代替等身ニ吉礼ヲ行フトモハ先ツ
身ノ本タル祖先ノ霊ナレハ必ス祭ルヘキ事ナリ
喪事略
一墓碑ヲ厳重ニナス事ハ吾
大御国風(ぶり)ナル事ハ大伴家持卿「大伴ノ遠ツ神祖(かむおや)ノオオクツキハシ
ルク標立(みめたち)人ノシルヘク」ト詠クマヘルニテモ知ルヘシ然レハ葬後五十日モ
過ナハオゴソカニ墓碑ヲ立ルソ人ノ子タルノ道ニハアリケリ
毎朝拝詞
遠津御祖乃御霊代々乃祖親族乃御霊総而此祭屋尓鎮座
須御霊等乃御前尓慎美敬比家尓毛身尓毛禍事有世須夜乃
守日乃守リ守幸比宇豆那比給比寿命(いのち)長久子孫等弥益々
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尓令栄賜比御祭善久仕奉之米給芳止祈白事乃由乎平
良祁久安介久間食セ止畏美畏美母白須
神魂大旨[神魂トハタマシヒ也人モ吾モ此世ヲマカリテ 体ハ土中ニ腐レドモ魂魄ハキユル事ナシ]
[サレハソノタマシヒ何ノ所ニ留マルヤノ事ヲ 論シタルナリ大旨トハアラマシト云フ事]
スベテ神人萬物ノミタマ悉皆 産霊神[高皇産霊神 神皇産霊神]
ノ賦リ賜ヘルモノニテ幽ヲ本世トシ天[天津日ノ国所謂日 界ヲ云]
ヲ本所トス故ニ理ノママヲ云ヘハ霊魂ハミナ其本所タル天ニ
帰ルヘキナリ然レトモ其善悪邪正ノ所行一ナラスニヨリテ其
帰スル所モ又種々ノ差別アル事ナリマツ 天照大御神
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高皇産霊神顕幽ヲ分ケ玉ヒテヨリ顕世ニテハ 天皇
朝廷ノ御治ヲワケ幽世ニテハ 大国主神[出雲国杵築 ノ大社ニ鎮坐ス]
ノ糺判ヲウケテ皆其賞罰ニ預ル事ナリ[コノ大神ハ幽世ノ 大主宰マシマスカユヘニ]
[国々一宮ノ大神産土ノ大神ナトヘ仰付ラレ善悪ト 邪正ヲ裁断シ玉フ則チ顕世ニテ府藩懸ナトヲ建置ルル如シ]顕世ニテハ所々
政聴アリテ朝憲ヲ分掌シ幽ニテハ 産土神アリテ幽政ヲ分
掌シ給フ事也サレハ誰人ニテモ 天ノ神ノ御教ニ違ハズ正シキ道ヲ
勤メ世ニ功アル者ハ顕世ニテハ 朝廷ノ御褒賞ヲ蒙り死テハ
大国主神ノ御賞ヲウケ理ノ如ク天ニ帰リテ永ク
天神ノ御愛憐ヲ蒙ルモアリ又此地ニ留リテ幸福ヲ受ル
モアルベシ然ルニモシ神ノ御教ニソムキ 国家ノ法令ヲ犯シ
諸ノ悪行ヲ為シタルモノハ假令顕世ノ刑ヲハ脱ルトモ死テ
大国主神ノ冥府ニ行テ其罰ヲウケ夜見ノ国[ヨミノ闇夜 ノ食ナト云]
[月界ヲ 云ナリ]ニ逐ハルルモアルヘシコレ即チ古典ニ所見マタ世ノ確
徴アル所ニテ神魂ノ大旨カクノ如シト知ルヘキナリ
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右神魂大旨ハ神祇官中ヨリ出タルモノ由因テ此所ニ
附録ス
附 云
右前條ニ記セルハ葬儀略葬事略神領葬略式
葬儀要録抄神葬私記等之数本ヲ抄録取捨シ
全文ヲ掲ケ即今仮ノ規則ヲ定ム管内ノ士庶ヲ以テ
中等ノ目的トナシ喪祭其等ヲ超ル事勿ルヘシ
一祭文ハ総テ文例大意ヲ記スノミ取捨ハ其人々ノ心ニ任ス
ヘキナリ強チニ此文ニ泥ム事ナカルヘシ
25 画像(翻刻付)
一祭文ハ長文ヲ好マス其意ノ貫クヲヨシトスヘシ若読タガフル
トモハクリ返シ読ト蚩モ三次ニ過ベカラス
一葬事携ル者ハ詮方ナシ左モアラテ吊ニノミ耒シ人々ヘハ酒
飯茶莨ノ火ナト出スヘカラス人ヲシテ新ノ穢火ニ触シムル事ヲ
憚レハチリ又吊ノ人モ其心スヘシ
一私記ニ云棺前ニ誄ヲ言スヘシ其文ハ生涯ノ功労ヲ讃シ或
ハ功半功 未成ヲ歎クナリト云ルカ如シ文例喪事略ニ見
ルヘシ然レトモ生涯ノ事蹟ヲ取トトノヘ人ニモ見スヘク書記シ事ハ
容易カラス事ナレハ葬式ノ事畢リテ後八日ノ祭リノ頃マテニ
ナスヘキナリ
一引用之書目毎祭ニ記ス可事ナレトモ全文ヲ挙ルハ希ニシテ祭々
取捨折衷シツトメテ郷里ノ風習ニ応ン事ヲ旨トス委シクハ
本事ヲ見テ知ルヘシ