奈良女子大学は、その前身であった奈良女子高等師範学校(明治41年創立。以下女高師)時代から使用されてきた数多くの教育標本を所蔵しています。本資料群は、そうした教育標本のなかの「正倉院模造宝物および関連資料」です。奈良の秋の風物詩の一つともいわれる、奈良国立博物館で開催される正倉院展では、毎年誰でも正倉院宝物を目にする機会があります。しかし、戦前には「御物」とされ、ごく一部の限られた人々にしかその観覧は許されていませんでした。本学が所蔵する正倉院模造宝物の特徴は、漆工芸家の吉田包春(1878-1949)がその多くの製作を手がけていることにあります。吉田包春は、春日大社の塗師職をつとめた吉田陽哉の三男として、兄である吉田立斎、北村久斎らとともに正倉院御物の修復や正倉院宝物の模造品製作に関わった人物です。画家の吉川霊華(1875-1929)とも、親交を深めていました。女高師では、学生たちに教科書を読んで学ぶだけではなく、少しでも歴史の息吹に触れさせるため、正倉院宝物を実際に修復した吉田包春の手になる、実物を模した本資料群が収集されました。奈良女子大学は、平成22年に、吉田包春のご遺族である画家吉田昇・怜子ご夫妻、林和子氏より多数の正倉院模造宝物及び関連資料をご寄贈いただきました。また、株式会社呉竹様からも墨資料をご寄贈いただきました。ますます充実したコレクションとして、今後も奈良女子大学の教育・研究活動に、また社会貢献に活用していきます。