春を待つ木々


00907
鐘の曲流れくる朝の窓黄味つぶらかに卵は割らる
カリヨンノ キョクナガレクル アサノマド キミツブラカニ タマゴハワラル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.172
【初出】 『形成』 1960.3 残冬抄 / 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (25)


00908
臘梅の枝を矯めつつ告げざればいつまでも裡に匂へる言葉
ロウバイノ エダヲタメツツ ツゲザレバ イツマデモウチニ ニオヘルコトバ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.172
【初出】 『形成』 1960.6 矢車の空 (5)


00909
前髪に雪のしづくを光らせて訪はむ未知の女のごとく
マヘガミニ ユキノシヅクヲ ヒカラセテ オトナハムミチノ オンナノゴトク

『不文の掟』(四季書房 1960) p.173
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (11)


00910
花の屑散らばる花舗の前過ぎてマッフのなかの手があたたかし
ハナノクズ チラバルカホノ マエスギテ マッフノナカノ テガアタタカシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.173
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (26)


00911
春を待つ木々のしづけさ巣箱幾つ懸け終へて人の去りたる後も
ハルヲマツ キギノシヅケサ スバコイクツ カケオヘテヒトノ サリタルノチモ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.173
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (29)


00912
抱きゆく鉢の桜草花ゆらぎ言ひそびれたる語彙が重たし
イダキユク ハチノプリムラ ハナユラギ イヒソビレタル ゴイガオモタシ

『不文の掟』(四季書房 1960) p.174
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (28)


00913
遠景をとざして芽ぶく雑木原沼は音無く水湛へゐる
エンケイヲ トザシテメブク ザフキハラ ヌマハオトナク ミズタタヘヰル

『不文の掟』(四季書房 1960) p.174
【初出】 『短歌』 1960.3 冬の言葉 (30)


00914
結末をみづからも知らぬ物語書きつぎて二人を今日は逢はしむ
ケツマツヲ ミヅカラモシラヌ モノガタリ カキツギテフタリヲ キョウハアハシム

『不文の掟』(四季書房 1960) p.174
【初出】 『形成』 1959.10 物語り (6)