このように、会議所の設立発起人会では規定納税額に非常特別税を含まないことによって起こる有権者数の減少を、制限額の低減を求めることで回避しようとしていた。会議所設立における議員選挙権の規定納税額は、普通個人の所得税、営業税、鉱業税の納税額は一〇円以上、法人資本額または出資額は一〇万円以上であった(明35・6・27農商務省令第一六号)。これを会議所設立発起人会では「営業、鉱業、所得納税額は各金七円以上に」、「法人の資本額又は財産を目的とする出資額」は「金一万円以上に」低減することを求めたのである。三十五年十二月十六日には農商務省令第一六号は改正され、次の条文が新たに設けられた。
第三条 地方ノ状況ニ依リ前二条ノ制限ニ依リ難キトキハ定款ノ定ムル所ニ従ヒ其ノ制限ヲ設クルコトヲ得
第四条 商業会議所設立ノ際前条第一項ノ特例ヲ設ケントスルトキハ商業会議所法施行規則第一条ノ手続ヲ為ス前予メ其認可申請書ヲ農商務大臣ニ差出スヘシ
第四条 商業会議所設立ノ際前条第一項ノ特例ヲ設ケントスルトキハ商業会議所法施行規則第一条ノ手続ヲ為ス前予メ其認可申請書ヲ農商務大臣ニ差出スヘシ
(農商務省令第二三号)
この改正によって初めて、地方の状況によっては納税制限額に特例を設けることが認められた。したがって申請書の中に、特例の設定時期について「明治三十五年御省令第十六号第四条に依り発起認可申請前に……」とあるのは、正しくは第一六条が改正された後の第二三号第四条を指していることになる。また、「商業会議所法施行規則第一条ノ手続」きとは、すなわち発起認可の申請書または附属書類を提出することであったから、これを先の条文に置き換えると、特例の設定は発起認可を受ける前に終えていなければならないことになる。
しかし特例の設定を求める申請書は、設立認可申請書と同時に提出された。これらに対して、三十九年十月九日には会議所の設立が、同二十二日には特例の設定が認可され、事務所は北一条西二丁目の俱楽府の建物を踏襲し、俱楽府は社交俱楽部として存続されることになった。