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特高機構の拡充

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 昭和十一年十一月の道会の予算案審議で、池田清長官は「各方面ノ雰囲気ハ、動モスレバ社会民心ノ不安ヲ醸成セントスルノ傾向」にあるとして、国家主義運動や流言蜚語・怪文書流布への警戒、防諜の徹底などをあげて、特高警察機構の拡充を求めた。これは十二年五月に実現し、警察部特高課のほか、各警察署の特高・外事係の拡充がなされる。札幌署では巡査部長一人と巡査二人が増員となった。十三年末の定員をみると、これら以外に特高・外事・情報の警部補が各一人おかれ、それぞれの係主任となっている。この時期、全道を通じて特高関係の割合は警察官全体の四パーセント弱ではあるが、派出所・駐在所勤務の一般警察官を含め「全警察官の特高化」が唱道され、社会運動にとどまらず、一般民衆の言動・生活に対するアンテナの役割が求められていた。
 十一年に司法省は「司法警察官吏訓練規定」を制定し、思想検事のイニシアチブを高めた。思想検事による特高警察官の教養訓練を目的に、管内警察署の特高主任会議が開催され、検事局及び警察部から抑圧取締の徹底が督励されるほか、各署からは情勢報告や取締上の経験が語られた。十三年十月の札幌地裁検事局主催の会議をみると、検事正樫田忠美は「共産主義は潰滅に瀕したとか、或は共産党の検挙に依り其の日本共産党はもうなくなったものであるといふやうな考へ方は間違って居る。未だ未だ我が国体観念と相容れざる主義綱領を持って居る悪性の徒輩は、地下に潜り機に応じ変に応じて其の頭を抬げんとして待機の姿勢を採りつつある」と訓示し、検事局への報告漏れなどに注意を促す。一方、札幌署の特高主任は、検事局に「折角送っても犯罪が成立しないとか、若くは起訴して貰はうと思ったやつが不起訴となるやうな関係がある」(前掲指導記録)などと齟齬を指摘している。