「外諜容疑者」に対しては、開戦当日の十二月八日に先の「非常措置」が発動された。
札幌では、すでにその身辺に監視の眼が及んでいた北大予科教師の
レーン夫妻と北大生
宮沢弘幸ら五人が軍機保護法違反・陸軍刑法違反などで検挙されたのである。物証のない明らかなフレーム・アップは「警察にては特殊の食物、休養の不足、留置場の不潔等にて極端に疲労し居り、係官の尋問の趣旨すら十分之を理解する能はず、只早く訊問を終り、家庭に帰り度さに出鱈目の供述を為したり」(ハロルド・
レーンの上告趣意書、上田誠吉『ある北大生の受難』より重引)という状況のもとで生み出された。十七年十二月の
札幌地裁における第一審判決で懲役一五年の重刑となった宮沢については、次のような認定が下されている(外事月報 昭18・2)。
(
レーン)夫妻の開催する英語個人教授会に出席して英語会話の教授を受けたることありて以来同夫妻に心酔して親交を重ぬるに及び、漸次其の感化を受け極端なる個人自由主義思想及反戦思想を抱懐するに至り、遂に我国体に対する疑惑乃至軍備軽視の念を生ずるに至れる処、右「
レーン」夫妻が旅行談を愛好就中軍事施設等に亙る談話に興味を抱き居るを看取するや第一、同夫妻の歓心を購はんが為我軍事上の秘密を探知して之を同夫妻に漏泄せしむることを企て(以下略)
写真-7 宮沢弘幸とレーン夫妻