戦局の悪化とともに治安維持の要請は高まるが、実態は危機的状況に陥っていた。なかでも「悪質重大事犯ノ徹底的取締ト戦力増強並国民生活安定阻害部面ノ重点的取締」などを重視した経済警察の運用は深刻だった。札幌などの大消費地では、二十年四月の時点で「日常生活ヲ通ジテ経済道義ノ頽廃遵法精神ノ低下傾向ハ極メテ憂慮セラルル現況ニアリ殊ニ近時ノ食糧逼迫ハ闇価格ノ昂騰ト換物思想ノ普遍化ヲ助長セシメツツアルハ特ニ警戒ヲ要スルモノアリ」(経済保安課 近時ニ於ケル経済警察ノ概要)と認識されていたのである。さらに、六月の札幌地裁検事正の報告では「ヒットラーノ戦死トナリ積極四四%ニ減シ批判的悲観的意向ハ五六%(前同五一%)ニ増加シ……前途ヲ危惧ス」(戦局ノ推移ニ伴フ民心ノ動向調)とされるのである。
また、「適正ナル労務配置ハ現下要求セラルル戦力増強上最モ必要ナル処」(参事官会議書類)という観点から、二十年二月、労政警察の拡充が図られ、札幌署には巡査五人の配属が予定された。この「適正ナル労務配置」の達成のためには、具体的には「高い賃金を逐って移動する不良労働者や国家目的に沿はぬ事業主の絶滅」(警察部長談、道新 昭19・11・15)という強権的取締が必要とされ、断行された。