第一に、札幌畜産公社について。三十二年十月、前年に農林省が策定したアメリカ余剰農産物見返り資金の貸付けを利用した畜肉消流施設改善のプランを受けて、それまで雪印食品(株)が所有していた札幌屠場を買収することにより、(株)札幌畜産公社が設立された。「市民に対する枝肉等の生肉の供給を円滑にするため、市、北海道経済農業協同組合連合会(ホクレン)、及び雪印食品(株)の共同出資により、畜産公社の設立が計画」(昭31事務)された。
しかし、その直後から建設敷地についてトラブルを生じたために業務開始は著しく遅れ(雪印食品三十年史)、三十三年五月に漸く操業開始にこぎつけた。経営が軌道に乗ったと考えられる四十年頃の状況をみると、資本金は一億六二〇万円で、その内訳はホクレン三六〇〇万円、雪印食品(株)七八三万円、札幌市一一〇〇万円、アメリカ余剰農産物見返り資金からの借入金五一二〇万円であり、公社の事業内容として家畜処理の運営、冷蔵庫の運営、枝肉取引市場の経営となっていた(市政の概要(経済編)昭40)。
第二に、モデル地域指定について。三十二年、恒久的冷害対策ないし寒地農業確立の一環として、酪農と養鶏のモデル地域が指定された。モデル酪農地域に指定されたのは、篠路町中沼の二〇戸であり、札幌市から補助や融資を得て、五カ年計画で乳牛三頭(一戸当たり)の導入、およびサイロや畜舎の設置などにより、やや安定した酪農経営を確立することを目指した。
モデル農業養鶏地域に指定されたのは、傾斜地帯のために経営不振を極めていた琴似町盤渓の一一戸であり、やはり札幌市から補助や融資を得て、五カ年計画で鶏の導入、および鶏舎や共同利用作業所の設置などにより、中農程度の営農が出来るようになることが目標とされた(昭32事務)。
第三に、家畜導入資金貸付事業について。二十七年以来続いてきた家畜貸付事業は、三十八年にひとまず終結したが、翌三十九年、今度は家畜を貸付けるのではなく、家畜購入のための資金を貸付けるというように形を変えて、名称も新たに家畜導入資金貸付事業としてスタートすることになった。表66は、家畜貸付事業および家畜導入資金貸付事業の実績を示したものである。
表-66 家畜貸付事業(昭27~38)および家畜導入資金貸付事業(昭39~45)の概要 (単位:千円) |
年度 | 家畜頭羽数 | 交付 (貸付) 資金 | |||
牛 | 緬羊 | 豚 | 鶏 | ||
昭27 | 5 | 42 | ― | ― | 700 |
28 | 13 | 13 | ― | 500 | 1,000 |
29 | 10 | 1 | ― | 300 | … |
30 | 42 | … | ― | … | … |
31 | 18 | … | ― | … | … |
32 | 20 | … | ― | … | … |
33 | 12 | … | ― | … | 870 |
34 | … | … | ― | … | 720 |
35 | 160 | 2 | ― | 4,410 | … |
36 | … | … | ― | … | … |
37 | 164 | 2 | ― | 5,000 | … |
38 | 168 | 2 | ― | 5,000 | … |
39 | 26 | ― | 97 | 5,800 | 7,000 |
40 | 26 | ― | 97 | 9,950 | 7,000 |
41 | 20 | ― | 110 | 5,000 | 7,400 |
42 | 20 | ― | … | 5,000 | 5,400 |
43 | 40 | ― | 100 | 10,000 | 12,805 |
44 | 40 | ― | … | 10,000 | 10,800 |
45 | 40 | ― | 100 | 10,000 | 12,800 |
『札幌市事務概況』各年による。 昭35・37・38の牛の数には,道有貸付の分を含む。 |
なお、家畜貸付事業が家畜導入資金貸付事業に転換した三十九年、札幌市は、畜産振興会と農協を通じて農家に貸付けていた家畜を回収して、希望者に払下げた。『事務概況』では、これを市有家畜払下事業と称した(昭39事務)。
次に、作目別にみていくことにするが、酪農関係の振興策としては、昭和二十九年に始まった乳牛経済検定組合の育成事業があり、本事業も継続実施されてきたはずであるが、その実績を示す資料は至って乏しい。
養豚関係の振興策としては、種豚の改良ないし優良品種の生産を図り、もって養豚経営の安定化を期すために、優良原種豚購入に対して補助金を交付した。
また、三十年代中頃には、畜産公害の問題(後述)が浮上するに至り、豚舎を都心部から周辺地区に集団疎開させる事になり、札幌市ではそのための土地購入費の貸付を行った(昭37事務)。
養鶏関係の振興策としては、養鶏施設費補助があり、各農協が共同成鶏舎、共同育雛舎、共同作業所(鶏卵の集出荷施設)などを設置する際に補助金を交付した。
表67は、これまでとり上げた畜産振興策の概要を示したものである。
表-67 畜産に対する振興策 | (単位:千円) |
年度 | モデル酪農地域 | モデル農業養鶏地域 | 乳牛経済検定組合 | 原種豚購入費補助 | 養鶏施設費補助 |
昭29 | ― | ― | … | ― | ― |
30 | ― | ― | 3 | ― | ― |
31 | ― | ― | … | ― | ― |
32 | … | … | … | ― | ― |
33 | 2,964 | 2,250 | 40 | ― | ― |
34 | 1,320 | 7,989 | 36 | ― | ― |
35 | … | … | … | ― | ― |
36 | 400 | … | … | ― | … |
37 | ― | ― | … | ― | 900 |
38 | ― | ― | … | ― | … |
39 | ― | ― | … | ― | 600 |
40 | ― | ― | … | 280 | 9,167 |
41 | ― | ― | … | … | 700 |
42 | ― | ― | … | … | … |
43 | ― | ― | 40 | 280 | 1,000 |
44 | ― | ― | 40 | ― | 1,000 |
45 | ― | ― | … | ― | 2,400 |
46 | ― | ― | … | ― | 3,100 |
『札幌市事務概況』各年による。 |