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新教育への批判―基礎学力の低下としつけ

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 教師が新教育に対する理解を深めつつ、本格的に教育実践に取り組みはじめた昭和二十五年ごろから、新教育への批判があらわれた。その一つは基礎学力の低下という問題であり、もう一つはしつけの問題であった。基礎学力の低下については、北海道立教育研究所が二十五年三月に実施した全道的な調査によってはっきりと示された。この調査は全道の小学校六年生九九〇人と中学校三年生一〇〇〇人を抽出し、国語と数学(算数)の標準問題を全道一斉に行ったものである。表4にその一部を掲載したが、漢字の書き取りや分数の四則演算といったいわゆる「基礎学力」に欠けている結果が表れている。道教研所員は、「文章の理解力も欠けているように思う。これは社会科に力を入れる反面基礎になる学科の教育を軽視する傾向の現れであると思われる」(道新 昭25・6・17夕)としている。このほか「今の中学生は英語ができぬABCを知らぬ生徒も」(道新 昭26・4・7)といった記事もある。しつけの問題については、「道徳方面が足らぬ」「子供の礼法の教育についてもっと工夫せよ」といった親の率直な意見がでてくるようになった。これらを含めて象徴的に言われたのが「六三制 野球ばかりが 強くなり」という川柳である。
表-4 道内児童・生徒の学力(昭25年3月調査)
小学校6年生中学校3年生
国語(読み)「電話」が読めない者…15%「平和」が読めない者…10%
「憲法」が読めない者…50%「宗教」が読めない者…30%
「思考」が読めない者…84%「頒布」が読めない者…97%
国語(書き)「勉強」が書けない者…30%「花火」が書けない者…14%
「説明」が書けない者…45%「風俗」が書けない者…65%
「解釈」が書けない者…96%「報酬」が書けない者…93%
算数(数学)
 
小4・5年程度の計算が
できない者     …25%
小3レベルの三桁の加算・
引算ができない者  …5%
分数の簡単なかけ算や割算が
できない者   …50%以上
分数の簡単なわり算が
できない者     …50%
『道新』(昭25.6.17夕)より作成。

 もちろん、新教育への肯定的な意見もあった。「政治に関する一般的関心は高まり、クラスの自治委員の選挙などは大人も顔負けするほど盛んになり、(中略)先生も〝この子が大きくなれば…〟と将来を楽しんでいる」(道新 昭26・9・17)という意見である。北海道教育委員会調査課が札幌市内に在住する各方面の代表者一〇〇人に「新教育に対してどう思うか」の意見を聞いたところ、「ほとんどがつめ込み主義の旧教育より民主的な新教育を礼賛して」いた(道新 昭26・10・12)。「教育学校は以前に比べ良くなつたか」という問いに、七一・七パーセントが良くなったと答えている。また「戦後の子供の乱れはどこに原因があるか」の問いにも「新教育のせいではなく、社会の責任だ」としたものが八七パーセントを占めた。しかし、カリキュラムについては、「教師が優秀な指導力をもつていない現在社会科のような教育はなかなか成功しない。むしろ社会科を修身、歴史、地理とわけて教えた方がよいのではないか」という意見が強かった。
 これらの問題は、新教育が目指していた学力とは何かということと密接な関係がある。また児童生徒の自主性・自立性をどうとらえるのか、個性の伸張をどう見極めるのかといった教育評価の方法が確立していなかったこととも関連があろう。ともあれ、このような批判のなかで、北海道学芸大学附属札幌小学校の第二次案である「札幌附小の教育計画」(昭25・6・10発表)は、「周辺学習(教科別の学習…筆者注)はコア・コースを進めるための単なる補助コースではなく、現代の高度に分化発達せる知識技能の独自性を認め、これを系統的に学習させるものとしての性格を明確にする」として、教科の系統学習にも重点を置くようになった。またこれらの動きとの関連は定かではないが、北九条小学校では、算数と国語の基礎学科について「児童の能力に応じクラスを上、中、下の三段階に分ける能力別学級編成」(道新 昭25・11・2夕)を二十四年の二学期から始めている。