表-15 札幌市域における鳥類・魚類・植物のレッドデータ・リスト | 平16.5.11現在 |
総数 NO. | 分類群 | 和名または学名 | レッドデータランク | ||||
絶滅危機種 | 絶滅危惧種 | 絶滅危急種 | 希少種 | 留意種 | |||
1~25 | 鳥類 | オジロワシ | ○ | ||||
クマタカ | ○ | ||||||
オオタカ | ○ | ||||||
クマゲラ | ○ | ||||||
ハイタカ など7種 | ○ | ||||||
アカショウビン | ○ | ||||||
エゾライチョウ | ○ | ||||||
コアカゲラ | ○ | ||||||
オオジシギ など15種 | ○ | ||||||
オオアカゲラ | ○ | ||||||
26~30 | 魚類 | アユ | ○ | ||||
イシカリワカサギ | ○ | ||||||
エゾトミヨ | ○ | ||||||
エゾウグイ | ○ | ||||||
ハナカジカ | ○ | ||||||
31~93 | 植物 | クロミサンザシ | ○ | ||||
サカネラン | ○ | ||||||
エゾモメンヅル | ○ | ||||||
コイチヨウラン | ○ | ||||||
ヤナギタウコギ | ○ | ||||||
シラネアオイ | ○ | ||||||
トキソウ | ○ | ||||||
フクジュソウ | ○ | ||||||
モイワナズナ など18種 | ○ | ||||||
イトスゲ | ○ | ||||||
エゾエノキ | ○ | ||||||
ヒダカエンレイソウ | ○ | ||||||
テイネニガクサ | ○ | ||||||
エゾコザクラ など40種 | ○ |
『北海道レッドデータブック』(http://rdb.hokkaido-ies.go.jp/ 平16)より作成。 |
表に示したように、①「絶滅危機種」は絶滅の危機に直面している種または亜種、②「絶滅危惧種」は絶滅の危機に瀕している種または亜種、③「絶滅危急種」は絶滅の危機が増大している種または亜種、④「希少種」は存続基盤が脆弱である種または亜種、⑤「留意種」は保護に留意すべき種または亜種のことを指している。各ランクは北海道が環境省および国際自然保護連合(IUCN)のカテゴリー(はんちゅう)を参考に北海道の実情を活かして基準を作成した。それによると、札幌市域の鳥類・魚類・植物のレッドデータに挙げられている種・亜種は合計すると九三種におよび、そのうち鳥類の絶滅危惧種はオジロワシ(石狩川付近)とクマタカ(南区山林)、絶滅危急種のオオタカ・クマゲラ・オオジシギは札幌市・江別市・北広島市三市にまたがる野幌森林公園内で見られる。植物では絶滅危機種にクロミサンザシなど、絶滅危急種にはシラネアオイ(空沼岳、定山渓、手稲山)などが挙げられている。
写真-4 絶滅危急種のシラネアオイ
また、昆虫は市町村ごとの分布調査が実施されていないため、表15には掲載していないが、最も高いランクの「絶滅種」(すでに絶滅したと考えられる種または亜種)に、テングチョウ北海道亜種がリストアップされているのは特筆される。このチョウは久万田敏夫・元北大農学部教授(昆虫学)によると、戦前期は円山で多産繁殖していたが、昭和四十七年に円山で採集された一個体が道内でも最後の個体となった(同データブック2001)。他に、希少種に指定されているカラカネイトトンボは、石狩湿原の一部である北区篠路福井湿地に生息している。平成七年に札幌拓北高校理科研究部が生息調査を開始し、ふるさと本来の自然保護調査活動に感銘した市民が、八年にカラカネイトトンボを守る会を発足させた(綿路昌史 守れ! カラカネイトトンボの生息する小さな湿原!)。同湿地は篠路清掃工場開設以降、原野商法により地権者多数の私有地となっており、十三年には大規模な埋め立て工事が開始され、道路の開設や排水路の整備により湿原部分二〇ヘクタールのうち、三分の二は湿原状態ではなくなった。十一年および十五年、同会から市宛てに「篠路福井湿地を湿地公園として保全」する陳情ならびに要望書が提出された。市議会環境消防委員会が審議し、専門家委託による市の保全調査も実施したが、すでに同湿地の地下水位は低下し、野生動植物は雪解け水で生きながらえている現状であった。将来的には乾燥し、自然消滅する末期的状態となっていることが判明したことから、市では公的資金(税金)を投入し、市が買収することは困難であるとの判断を十六年に回答した(二十期小史)。同会では、十二年以降には当別町美登江(びとえ)茨戸川岸に作ったビオトープへ、同湿地に生息するヤゴやドジョウ、ミズゴケなどを移転させ、多様な生物の生息の回復を図るとともに、生息地を守るためNPO法人化し、十六年八月には篠路福井湿地約一〇ヘクタールを保全するナショナル・トラスト運動を開始した(道新 平16・11・4)。
「北海道希少野生動植物の保護に関する条例」によると、野生動植物は「生態系の重要な構成要素としてだけでなく、人類の豊かさを象徴するものとして欠かすことのできない役割を果たしている」、開発の進行により野生生物の生息地や生育地が失われたり、乱獲や盗掘による減少が進み、絶滅のおそれのあるものが少なくないため、守るべき種を指定して保護管理するもの、と明確に位置づけている。しかし、レッドデータに指定されたこれら個体の保護取り組みは、巨大な開発と急激な都市化が進む札幌にあって、一方の自然環境保全との共生が極めて困難な状況に直面している。以上のように、環境保全運動は高度経済成長期以降の情勢変化にともない、当初の国立公園内の大自然保護から、身近な河川や三角山のような市民が子どものころから親しんだ山、豊平川や篠路福井湿地など、周辺の動植物を含めた生態系の保護へと拡大した。