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死因別の変容と平均寿命

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 高度経済成長期以降は、死因の三大順位が結核や急性伝染病から成人病のがんや脳血管疾患、心臓疾患に移行してきた。成人病は家庭や社会の中枢にいる年齢層の生命を奪い、労働不能に陥れるため家庭や社会において多大な損失をもたらした。がんについては早期発見、早期治療が重要であり、脳疾患や心疾患の循環器系疾患は、高血圧や動脈硬化が要因であることから、日常の健康管理が予防策となった。市では昭和四十八年四月に一部公費負担のがん検診を開始し、五十三年に健康診査の機会が少ない家庭の「主婦」や自営業の女性を対象に婦人健康診査を開始した。五十八年二月に施行された老人保健法により、「自らの健康は自ら守る」という認識と自覚を高めるため、四〇歳以上の地区住民に予防のための健康教育と健康相談、血圧測定や検尿診査を実施し、健康診査の結果を記録する健康手帳を交付した(市中央保健所事業概況報告 昭59)。がん検診も胃がん、希望者のみ子宮がん、肺がん、平成四年に大腸がんを開始した。八年、従来の加齢による成人病は、生活習慣病に改称された。同病の定義が「食習慣・運動習慣・喫煙・飲酒がその発症進行に関与する疾病群」と規定され、それらの自己管理と予防策が求められ始めた。
 表27に示したように、死因で増加したのは第一位のがん(悪性新生物)と自殺である。がんは、昭和四十七年に人口一万人あたり九パーセント・一〇六一人であったが、平成十二年では二〇パーセントを超えて三七二七人になった。
表-27 札幌市の主要死因順位・死亡数および対人口1万人比率の推移実数の単位:人
種別
年次
第1位第2位第3位第4位第5位
死因実数比率死因実数比率死因実数比率死因実数比率死因実数比率
昭47悪性新生物1,061
9.8
脳血管疾患985
9.1
全心臓の疾患752
7.0
不慮の事故230
2.1
肺炎気管支炎206
1.9
 50全心臓の疾患1,048
10.5
悪性新生物1,024
10.2
脳血管疾患833
8.3
肺炎気管支炎359
3.6
不慮の事故・有害作用212
2.1
 53悪性新生物1,480
11.1
脳血管疾患1,050
7.9
心臓の疾患874
6.5
肺炎気管支炎448
3.4
不慮の事故・有害作用231
1.7
 56悪性新生物1,616
11.3
心臓の疾患1,182
8.3
脳血管疾患1,170
8.2
肺炎気管支炎517
3.6
不慮の事故・有害作用260
1.8
 59悪性新生物1,821
12.0
心臓の疾患1,359
8.9
脳血管疾患1,047
6.9
肺炎気管支炎456
3.0
自殺315
2.1
 62悪性新生物2,071
13.0
心臓の疾患1,496
9.4
脳血管疾患908
5.7
肺炎気管支炎500
3.1
不慮の事故・有害作用255
1.6
平 1悪性新生物2,524
15.3
心臓の疾患1,673
10.2
脳血管疾患906
5.1
肺炎気管支炎745
4.5
不慮の事故・有害作用274
1.7
  4悪性新生物2,684
15.7
心臓の疾患1,894
11.1
脳血管疾患955
5.6
肺炎気管支炎861
5.0
不慮の事故・有害作用296
1.7
  7悪性新生物3,083
17.6
心臓の疾患1,574
9.0
脳血管疾患1,278
7.3
肺炎 727
4.2
不慮の事故377
2.2
 10悪性新生物3,439
19.1
心臓の疾患1,591
8.8
脳血管疾患1,307
7.3
肺炎 748
4.2
自殺 413
2.3
 12悪性新生物3,727
20.5
心臓の疾患1,651
9.1
脳血管疾患1,439
7.9
肺炎820
4.5
自殺475
2.6
『札幌市衛生年報』より作成。
病名の区分方法は死亡の直接原因である。[その他]は除いた。

 治癒不可能とされたがんについては、告知を希望する患者が目立ち始め、なかには自らの闘病体験を出版や講演の機会を通じて公表するなど、残された日々をより良く過ごしたいとする人たちも増えてきた。また、家族や医療従事者らの末期医療に臨む患者への接し方にも変化がみられ、患者と家族の苦痛や悩みを和らげるホスピス・ケアが期待された。病院内で一定の病室を確保し、専門的なターミナルケア(終末医療)の実施は昭和六十三年、東札幌病院札幌ひばりが丘病院がケア病棟を開設し、平成十二年には札幌鉄道病院が「緩和ケア室」を設置し、重症がん患者らが安らかに療養生活を送れるよう支援した(道新 平12・2・17)。ホスピスケア先進者の東札幌病院石垣靖子副院長は、「市民とともに創るホスピスケア講座」を開設したり、在宅がん患者のためのがん治療システムの全国ネットを医療関係者らとともにつくった(道新 平7・12・7)。
 ところで、札幌市の平均寿命は図5のように、四十五年以降も医療技術の進歩、抗生物質等の開発、病気予防対策の普及、食生活の改善などにより、男女ともに順調な延びを示した。六十年(男七五・三三歳、女八〇・八七歳)には女性が八〇歳を超え、平成十三年(男七八・七九歳、女八五・八一歳)に男性は八〇歳にいたらず、女性とは七歳の格差となった。この背景には交通事故死の減少(表28)に代わり、五十九年五位に上昇した自殺が、平成十年は四〇〇人を超え、十二年は四七五人と過去最多の人たちが自ら命を絶った現実である。これらをふまえて、平成十年に男性の平均寿命の延びが鈍った原因は男性自殺者が三〇〇人に上ったことによる。自殺がなければ十年は男性が〇・七六歳、女性が〇・三三歳も平均寿命が延びたことになる(道新 平11・9・1)。十一年の落ち込みは、死亡数が十年を上回ったことによる。

図-5 札幌市・全国の平均寿命の推移(大正10年~平成13年)

表-28 札幌市交通事故死者数推移
年次死者(人)
昭5777
 5898
 5984
 6080
 6165
 6271
 6384
平 1100
  2121
  395
『道新』(平4.1.8)より作成。