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老人保健法による医療

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 昭和五十八年二月一日老人保健法が施行された。これは、高齢化社会の到来に対応するため、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施し、国民の老後における健康の保持と適正な医療の確保を図ることを目的とした。医療の実施は、七〇歳(ねたきり等の高齢者は六五歳)以上の高齢者に対して、市町村長が必要な医療を行うもので、これまで無料にしてきた老人医療制度に新たに患者の一部負担制度を設けたほか、所得制限の撤廃、健康保険の本人、家族を問わず、すべてこの制度の対象者とするなど、従来の老人医療公費負担制度を大きく変えた。
 高齢者人口の増加に伴う老人医療費の急速な伸びに対し、老人保健制度の運営の長期的な安定を図るため、一部負担金が、昭和六十二年一月、平成四年一月、五年四月と引き上げられ、七年度からは消費者物価の変動率に応じて一部負担金の額を改定するスライド制が導入された。また、六年十月には入院時の食事についての給付の見直しにより、食事代の一部が自己負担となり、九年九月には一部負担金の改定及び薬剤一部負担金が導入された。ただし、薬剤一部負担金については、十一年七月から特別措置により国が受給者に代わって支払うこととなった。表35に札幌市の医療費の状況(全国比)を示した。札幌市の老人医療費は、全国的にみて高いといわれているが、受給者数の伸びが全国平均より高いこともあり、老人医療費の伸びは、平成元年度まで常に全国の伸び率を上回って増え続けてきた。二年度以降は、昭和六十三年四月の地域医療計画の公示により、病床増加が押さえられていたため、医療費の伸びも鈍化傾向を示し、老人医療費及び一人あたり老人医療費の伸びは、全国平均を下回っている。しかし、平成十一年度における札幌市の受給者の全国に占める割合が一・一〇パーセントであるのに対し、老人医療費のそれは一・六四パーセントにもなっている。その結果、一人あたり老人医療費は、一一四万八七〇四円で、全国平均(七七万一五〇四円)の一・四九倍と依然として極めて高い状況になっている。札幌市の十二年度老人医療費の緒率について、他の政令都市と比較すると、次のような特徴があげられる。医療費に占める入院費の割合が大きい(政令市中第一位)。一人あたり入院件数・日数・入院費が大きい(政令市中第一位)。一方、一人あたり入院費は政令市中八位である。
表-35 札幌市の医療費の状況(全国比)
年度受給者数老人医療費1人あたり老人医療費
全国札幌市札幌市の占める割合
(%)
全国札幌市札幌市の占める割合
(%)
全国札幌市札幌市の占める割合
(%)
(千人)伸率
(%)
(千人)伸率
(%)
(億円)伸率
(%)
(億円)伸率
(%)
(円)伸率
(%)
(円)伸率
(%)
昭639,084810.8949,8248411.69548,4581,032,8731.88
平 19,3633.1865.20.9253,7307.892810.41.73573,8684.61,083,3514.91.89
  29,7323.9916.20.9457,3316.79906.71.73589,0772.71,088,4120.51.85
  310,1123.9965.90.9561,9768.11,0627.31.71612,8794.01,102,6121.31.80
  410,4483.31025.50.9866,6857.61,1397.21.71635,8223.71,114,9961.11.75
  510,8844.21085.50.9971,3937.11,2166.81.70655,9453.21,128,7891.21.72
  611,3454.21156.31.0177,8049.01,3037.11.67685,8174.61,137,4010.81.66
  711,8534.51226.51.0384,5258.61,4188.91.68713,1334.01,162,8412.21.63
  812,4405.01306.61.0592,1669.01,5398.51.67740,8843.91,183,7791.81.60
  913,0134.61386.11.0696,3924.61,6114.71.67740,719▲0.11,164,795▲1.61.57
 1013,6054.51476.51.08101,0924.91,6723.81.65743,0670.31,135,219▲2.51.53
 1114,1864.31566.11.10109,4438.31,7957.41.64771,5043.81,148,7041.21.49
『札幌市の老人医療』(平成13年度版)より。老人医療費には一部負担金を含まない。

 医療費増大の要因として、高齢化の進展、医学・医療技術や医療機器の進歩が考えられる。特徴として、①全体の医療費に占める入院費の割合が高い。政令市平均の一・五倍に相当。②病床数が多い。人口一〇万人対病床数は二四一〇床で、政令市中一位、平均の一・五倍である。それだけ受け入れ能力が大きいということになり、入院受診率を高め、入院費を押し上げる結果となっている。③環境や季節変動による要因が見られる。札幌市の役割から、都市機能の集中・医療資本の集積が行われ、このため、他市町村からの転入居住による入・通院が少なくないものと思われる。また、積雪寒冷地のため、寒冷期になると入院件数が増加し、温暖期に減少するという周期が見られる(この傾向は全国の場合も見られるが、本市の場合は、特にその傾向が強い)。これらも医療費増大の要因と考えられよう(札幌市の老人医療 平13年度版)。
 なお、高齢者福祉のあり方としては施設中心型から在宅福祉サービス中心型へと移行が目指された。全国と政令指定都市を比較対照した保健・福祉施設の設置率を表36に示したが、これを見る限りでも札幌市の場合が浮き彫りにされる。平成元年と十年とでは、札幌市内の特別養護老人ホームは元年度においては第三位であったものが伸び率の低さが影響して十年度では八位に落ちる。また老人保健施設では、元年では一位の設置率であったが、他都市の伸び率の伸張によって十年度では三位に落ちている。しかし、病床群では元年度に一位であったものが、いわゆる老人病院の「療養型病床群」への転換政策によってその数を大幅に減らしつつも、十年度においても依然として一位を保っている。札幌市の場合、他都市と異なって、しがらみにとらわれない風土や、寒冷地という地域性などを背景に、特別養護老人ホームなど施設に大きく依存してきた。介護保険制度導入にあたり、介護保険対象施設として、特別養護老人ホーム、老人保健施設の他、療養型病床群も対象となったので、平成四年から登場した市内老人専門病院の多くは療養型病床群に転換を図った。十一年には、市内には高齢者の介護専門病院が、約九〇〇〇床もあり、政令指定都市中で最も多いとされ、市内外の高齢者の長期入院患者が対象と、新聞報道もあった(道新 平11・3・3)。実際、札幌市が把握した十一年度の療養型病床群は、四九病院・六四九七床にものぼった(札幌市の高齢者保険福祉概要 平11年度版)。このように、札幌市は老人医療機関を筆頭にして施設型のサービスを先取りする形で早期にスタートしたことから、施設型のサービスは豊富であるが、介護保険制度の目指す在宅サービスの利用状況は芳しくなかった。
表-36 保健・福祉施設の設置率(平1・10年度)
 特別養護老人ホーム老人保健施設療養型病床群
1年度10年度伸び率1年度10年度伸び率1年度10年度伸び率
全国1,079.51,339.4259.9111.2994.3883.1998.71,199.5200.8
北海道2,232.81,873.9-358.9115.21,032.0916.81,281.41,840.4559.0
札幌市1,042.21,095.353.1208.41,202.4994.06,204.53,935.7-2,268.8
仙台市646.91,243.9597.0127.8898.9771.1510.1775.8265.7
千葉市1,457.41,071.51,172.0
横浜市739.4924.9185.530.2293.3263.1483.8173.0-310.8
川崎市661.9876.4214.5413.3211.2129.2-82.0
名古屋市576.5961.9385.4187.3778.7591.4867.2629.3-237.9
京都市736.31,058.1321.874.8509.0434.21,661.9804.2-857.7
大阪市4571,112.2655.218.4672.2653.8773.6689.2-84.4
神戸市722.91,235.6512.7610.3881.41,023.7142.3
広島市1,160.11,320.2160.192.4937.7845.31,104.22,214.71,110.5
北九州市1,199.71,237.938.2120.01,259.81,139.81,503.62,016.7513.1
福岡市865.61,118.7253.11,280.62,876.73,195.2318.5
『札幌の歴史』第41号米本秀仁「札幌市の高齢者福祉の実態」より。『平成2年版老人保健福祉マップ数値表』『平成11年版老人保健福祉サービス利用状況地図(老人保健福祉マップ)の概要について』より作成。設置率は65歳以上人口10万人あたり定員数。ただし、療養型病床群の平成元年度は「老人病院(特例許可および特例許可外病院)」を指す。