社会の高齢化が一段と進む中で、高齢者の介護問題は老後の最大不安要因となってきていた。しかし、高齢者介護サービスは、老人福祉と、老人保健の異なる制度の下で提供されることから、利用手続きや利用者負担の面で不均衡があり、総合的なサービス利用ができなくなっていた。老人福祉制度は、行政がサービスの種類、提供機関を決めるため、利用者がサービスを自由に選択できない。また老人保健制度は、介護を主目的とする一般病院への長期入院や医療サービス提供の非効率性などの問題が生じていた。そこで、両制度を再編成した介護保険制度を創設し、給付と負担の関係が明確な社会保険方式により、社会全体で介護を支える新たな仕組みを構築し、利用者の選択により、保健・医療・福祉にわたる介護サービスを総合的に利用できるようにした。国では、平成元年(一九八九)に厚生省による「高齢者保健福祉推進十カ年計画」通称「ゴールドプラン」、六年に「新ゴールドプラン」を策定した。やがて、六年三月、厚相の私的懇談会による「21世紀福祉ビジョン」で、はじめてだれもが介護を受けることができる新たな仕組みが提案され、厚相の諮問機関・老人保健施設審議会で公的介護保険制度が具体化された。地方公聴会が札幌でも七年十一月九日開催された(道新 平7・11・12)。
札幌市では、平成元年六月市民局に札幌市高齢化対策推進本部を設置し、二一世紀に向けて推進すべき高齢化対策について検討を重ね、二年八月「札幌市高齢化対策指針」を策定したことは前述した。六年には、国の「高齢者保健福祉推進十カ年計画」(ゴールドプラン)を受け、「札幌市高齢者保健福祉計画」を策定し、計画の目標年度にあたる十一年度までに、ホームヘルパーを五年度の約一五倍の九一〇人に、デイサービスを約六倍の九八カ所に、ショートステイを五二八床に拡大する計画を打ち出した(道新 平6・8・30)。ところで、道内における公的介護保険制度に対する浸透度は、七年に行った北海道新聞情報研究所委託調査結果を見ても、充実して欲しいサービス給付の中、介護が必要な高齢者が入れる施設を増やすが一位を占め、訪問介護、ホームヘルパー派遣制度が二位、ショートステイ、デイサービスが三位であった。道内では、入院する病院を求めて過疎地から札幌市などへ転居する高齢者が多いといった現象が続いていた(道新 平8・7・11)。さらに九年、厚生省が公表した七年度の「老人保健福祉マップ」によれば、道内は特別養護老人ホームの整備が進む一方、在宅福祉サービスの利用促進が遅れ、札幌市の訪問介護の利用率は五九の都道府県・政令指定都市中で、六年連続最下位、利用回数では、都道府県・政令都市別順位で、札幌市の訪問介護の利用率が最下位、ショートステイでは、札幌市を除く道内が四九位、札幌市が五七位、在宅サービスでは道内・札幌市ともに低水準を占めるといった結果が出された(道新 平9・9・23)。やはりここでも施設依存が明らかとなった。
九年十二月十七日、介護保険法が公布され、十二年四月スタートが決まった。公的介護保険とは、ねたきりの高齢者がホームヘルパー派遣や特別養護老人ホームへの入所などの介護サービスを受けられる新しい社会保険制度で、対象は原則として六五歳以上の高齢者で、サービスには在宅と施設の二種類があり、被保険者は四〇歳以上であった。介護保険の導入で、施設や在宅での高齢者介護は従来の市町村による事業から、都道府県が指定した事業者がサービスを提供する方式に変わることになった。高齢者の介護の必要度は市町村などが運営する「介護認定審査会」が本人からの聞き取り調査と主治医の意見書により七段階(介護が必要ない「自立」と「要支援」「要介護1~5」)で判定することとなり、十年九~十月各自治体では、要介護認定基準案基本調査項目八五項目の質問から認定を希望する高齢者の介護時間をコンピューター推計し、どの介護サービスが必要かを実地テストすることになった(道新 平10・7・10)。また同年六月、市では介護保険事業計画策定委員会を設置し、介護保険実施に向け審議を進めるとともに、九~十月にかけて市内外で高齢者への介護サービスを提供している事業者一四五六カ所(ホームヘルプサービス提供事業者・団体、介護機器・用具の販売・レンタル事業者、訪問入浴事業者、高齢者下宿・高齢者用共同住宅、社会福祉法人・医療法人・その他の法人、シルバーマーク認定事業者等)を対象に、介護サービスの供給意向調査を実施した(札幌市介護保険事業計画 平12)。サービスの需要に対して供給量が確保されるか把握のためであった。
なお、福祉相談や家事援助のボランティアを有料で紹介する民間による介護サービス産業について触れておく。一部を紹介すると、(有)ケアサービス(本社札幌 昭62・11)は、ホームヘルパーの派遣事業を(道新 平2・9・1)、ゴールデンサービス(本社札幌 平6・12)は、家事援助・福祉相談・安否確認等の事業を開始し、料金は市など公的機関よりやや割高だが、土、日、祝日でも利用できるサービスが目玉であった(道新 平7・6・16)。さらに前者は、市の委託を受けたり(シルバーマーク認定事業者要覧 平10)、介護分野の大幅な先行投資や営業拡大を目指し、十年四月と十一年三月の二度にわたる規制緩和後は、それまで社会福祉法人・医療法人等の非営利団体の事業限定のデイサービスや訪問看護事業にも参入するようになった(道新 平10・5・28、10・6・12、11・4・8)(五章六節参照)。