ビューア該当ページ

活発化するグループ展

912 ~ 915 / 1053ページ
 昭和五十年代に入り、その作品においては前衛的かつ多様化の傾向を強めながら自分達の活動範囲をも拡げ、北海道の美術の動向に新鮮なエネルギーを吹き込んだのはグループ展だった。
 五十二年結成、六十三年まで隔年で計七回の展覧会を開いた「北海道現代作家展」は、従前の道内グループ展のあり方を一変させる革新性をそなえたものだったといえる。当初段階からメンバー全員が公募展と無縁であったこと、道内在住の戦後生まれ世代が中心だったことのほか、北海道立近代美術館に会場を移した第三回展以降の、出品者の年代や居住地域などにこだわらない柔軟かつ思い切った運営姿勢は、最も重要視すべきその展示に全国的な現代美術最前線の状況を現出させた最大の要因だった。
 「グループTODAY」は、かつての「組織」(昭38)や「THE VISUAL TIME」(昭46)、さらに「12稜空間」(昭48)に至るグループ活動を通して結びついた美術家たちが中心となり五十四年に結成された。特筆すべきは国際展を彼らメンバー自身の手づくりにより実現させた点であろう。「ART TODAY/SAPPORO TORIENNALE 第一回国際現代美術展」から「サッポロ・トリエンナーレ一九八七」まで、そのうち北海道立近代美術館を会場に展開した三回の展覧会がメーンの活動となるわけだが、これらの展覧会が機縁となり韓国とカナダから招待されたことは、北海道の美術家の活動が国際的なフィールドにまで広がったことを意味しよう。それはまた創作の核心に宿る自身の精神風土や地域性をグローバルな視座から再発見したいという、メンバーの強い一念が実らせた画期的な出来事であった。
 昭和五十三年発足の「玄の会」は、小谷博貞坂坦道(さかたんどう)、本田明二砂田友治栃内忠男伊東将夫亀山良雄という、いずれも四〇年以上の画歴をもつ大正生まれの、いわゆる実力者たちで構成されたグループだった。あらかじめ一〇回展をもって終止する計画であったため、毎回の出品作品には集中的に創造に打ち込もうとするそれぞれの気概がくっきりと映しだされ、後続の若い世代に改めて創作の原点を想起させる貴重な機会となった。
 六十一年からスタートした「北の表現者達/グループ〈朔〉」展は、「玄の会」同様に一〇年で解散という取り決めどおりに平成七年まで続いた。これは神田一明岸本裕躬(ひろみ)、木村訓丈野本醇伏木田光夫福井正治(第五回展で早逝)の六人の油彩画家によるもので、いわゆる具象系のトップクラスと目される彼らの個性が呈示した作品の質の高さとそこにみなぎる緊張感は、周辺に強い刺激と影響を与えた。
 一〇年を一区切りとする点では平成三年から十二年までの「北の現代具象作家展」(平成十四年からは「具象の新世紀」として再出発)も同じだが、このメンバーは所属団体やキャリアにこだわらない具象作家二〇名程度、ジャンルも油彩、水彩、日本画、版画と幅広く、現代具象画のさまざまな傾向を一堂に集め、メンバー相互の啓発を促す意図を十分にうかがわせた。ほかには「プリントアドベンチャー」(昭61・平2、他に「アジアプリントアドベンチャー」が平10・15)、「抽象の現在展」(昭63以来四回)、「十人空間展」(平2~8)、「北海道立体表現展」(平13・15)など、さらに一回限りの展覧会を含めグループによる活動は相当数にのぼり、個展と並んで道内美術に大きく力強い足跡を刻み続ける活動スタイルとなった。
 そうしたなかで平成六年の「札幌アヴァンギャルドの潮流展」の開催は、北海道の美術史上際だって特異な位置を占める展覧会だった。この展覧会につき吉田豪介は、以下のように評価している。
 ここで一堂に会した作品は、散発的と無視されていた前衛活動が一つの潮流をなしていたことを示し、(一九)五十年代には人間性への問いかけ、六十年代にはアンフォルメルとネオダダへの関心、そして七十年代ではポップアートを経た明快な造形性と社会批評が顕著に見通され、さらに現在の表現における爆発的な多様性を確認しつつ、グループ活動がアウトサイダーどころか、公募展以上に時代をヴィヴィッドに反映していることを証明してみせた
(吉田豪介 北海道の美術史―異端と正統のダイナミズム 平7)。

 長い間地道な活動を積み重ねてきた各ジャンルの団体展も、それぞれの節目の年に北海道立近代美術館を会場にして記念展を開いた。同じ平成十一年に開催された三つの展覧会は、ジャンルの独自性と時代性を融合した造形探究の意欲と実践の跡を誇示する機会となった。「版・創造の大地 北海道版画協会40周年記念展」(昭和二十九年に札幌版画協会として創立、三十四年に現在名に改称)。デザインの分野では北海道デザイン協議会が昭和五十七年の発足以来初めての「北のデザイン」展を開き、陶芸の分野でも、創設三〇周年記念「北海道陶芸会展」が開かれ、美術的観点からも十分に応えうる道内の焼き物の実力を再認識させた。また翌平成十二年には、同じく北海道立近代美術館で結成一五周年を迎えた「北の日本画展」が開かれ、北海道の地域的特性に根ざした日本画の創造と発信を目指してきたこのグループの真摯な取り組みぶりをアピールした。