「酉陽雑俎(ゆうようざっそ)」の猫洗面過耳則客至(猫が顔を洗い耳を過ぎると客が来る)という故事に由来するという招き猫だが、現在のような開運招福の信仰と結びつく縁起話には様々なものがあり、稲荷神や遊女などとの関連性も指摘されている。
東京都世田谷区の豪徳寺は、招き猫の寺として知られている。同寺は江戸時代に世田谷を所領とした彦根藩井伊家の菩提寺であり、「寺の猫が手招きをして井伊の殿様を落雷から救った」との言説が、やがて商売繁盛の縁起物として招き猫になったといわれている。札幌では社寺の縁起などと結びついた地域性豊かな類話は聞かないが、商売繁盛の縁起物として招き猫を飾っている商店は多い。全国的に見ても、招き猫の置物は千客万来、商売繁盛を願う縁起物として尊重されており、右手を上げていれば「お金を招く」とされ、左手を上げていれば「お客を招く」といわれている。また、猫の色も白は「福」、黒は「病」、黄金は「運」に関係するとされている。
不景気になると百貨店の縁起物の売れ行きが伸びる。札幌も同様で、定番の達磨や七福神、福助、干支(えと)の置物に加えて、招き猫も人気商品の一つになっている。中には三越が百貨店の創設一〇〇周年を記念して、二〇〇四年に札幌店(中央区南一条西三丁目)九階宝飾売場に純金製の高さ約七センチ、重さ一〇〇グラムの招き猫を六〇万円で展示販売して買い物客の目を引いたように非常に高価なものもあるが、一般に「幸福グッズ」「開運グッズ」などと呼ばれて店舗内の一角を占拠しているのは極めて庶民的なグッズばかりである。最近は商品の多様化も進み、風水を取り入れた貯金箱の他、フクロウ(不苦労、福籠、福朗)や西洋で縁起が良いとされる豚の置物など、様々なグッズが販売されている。百貨店のみならずJRから発売された「一ならび記念オレンジカード」や縁起きっぷ、洋菓子店・館や、きのとやの「好ケーキ」など、市場に溢れる縁起物を数え挙げれば切りがない。
招き猫は、「絵馬」と同じように「お助けグッズ」でもあって、年末になると、市内の文房具店に風変わりな文房具類と一緒に招き猫も並べられる。特に受験生には、学問運に効果があるとされる緑色の風水招き猫の置物やキーホルダー、携帯用ストラップに人気がある。ただし、招き猫に代表される幸福グッズは、縁起物には違いないが、御利益があるからという理由だけではなく、身につけるアクセサリーやインテリア小物としてファッション性も優れているからこそ若者の支持を得ているのであろう。