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はじめに

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 現在残されている札幌市の最も古い統計表は,『明治廿一年札幌区役所統計概表』(1889年刊)であるが,区役所で統計書が継続して作られるようになるのは,1910年(明43)以降であるため,この間の統計数値を得るには,他の統計資料に頼らざるをえない。また,現在の札幌市は,市街と周辺町村が合併して成立しているが(図参照),区役所で作られた統計書には,周辺町村の数値が含まれていない。そのため本書では『札幌区(市)統計一班』のほかに,『北海道庁統計書』(以下『道庁統計書』と略)『札幌市勢要覧』『町村勢要覧』『石狩(札幌)支庁要覧』『札幌商業(工)会議所統計年報』等の資料を採用せざるをえない場合が少なくなかった。これらのうち,『道庁統計書』はもっとも包括的な統計書であり,おおむね各項目について支庁,市郡区別の統計数値が掲載されており,北海道の全体状況を把握し得る統計書となっている。
 統計書は,その作成方法から分類すると,2種に大別される。一つは所轄する部署がなんらかの統計調査を行って作成しており,調査統計書であるという点で一次統計書ということができる。もう一つは,他の統計調査主管部課からの報告をもとに作成しており,編纂統計書であるという点で二次統計書ということができる。『道庁統計書』は,凡例に「本編ハ庁中各部及所轄官衙ヨリ徴集セル材料ニ依リ編纂シ又間々他官衙若クハ諸会社等ヨリ直チニ徴集セル材料ニ拠ルモノアリ」(『第七回道庁統計書』1894年刊)とあるように,他の統計調査主管部課からの報告をもとに作成していた編纂統計書すなわち二次統計書に属するものである。これに対して『北海道庁勧業年報』『北海道(庁)衛生年報』『北海道庁学事年報』等は,それぞれを所轄する部署が調査の上,編集発行した一次統計書であり,『道庁統計書』の底本とも呼べるものである。本項では『道庁統計書』の成り立ちを概観するとともに,統計の作成過程についても明らかにしておく。統計の作成過程については,『道庁勧業年報』に代表される,明治期の産業分野の統計法規を事例にする。
 また,札幌区の統計事情については,統計書の編纂や統計調査等の統計事業と,統計学の普及活動の二つの側面から紹介しておく。これらの記述にあたっては,調査集計過程の精度が確保され,第1回国勢調査が実施された1920年(大9)までを対象とする。
 なお,本書で用いた主な統計資料については,本文中に刊行状況一覧を設け,最後に参考資料として,戦前に刊行された北海道関係統計資料目録を掲げた。