花野集叙

原本 3~8

 いでや誹諧といふものゝゆゑよしとかくのあげらひハさまざまにあれどいにしへの歌の集どもの中にあるひとツの体より流れ出たる事にこそあれ、あながちにことわりもとめいふハ中々に心おくれたるわざなりかし。かくていまの世さかりにおこなはるゝはぐゑむろくの頃ばせを翁出られてきよくもきよくみなもとをさたしおきたまへりしかばそのしもツせをあらそひくむ人の年月に多くなんなりにたる中にも江門の春秋庵白雄叟ハ世にゆるされしものしり人なるが其にごりなきすじを信濃の国の天姥ぬしにつたへ、ぬしより又同じ国の葛三ぬしにつたへられたり。此ミたりの人たちハ世に嵐の音たかく聞えていひ出しことの葉もミなめヅべからぬハあらざりけり。されど夢幻泡影のことわりにてはかなくもみたりながらミまかられしよりひとりハみそぢまりミとせ、ひとりはなゝとせ、ひとりはふたとせになりけるが天姥ぬしのひとりご八朗ぬしハ□けうの心ふかき人にて、こたび父ぬしをはじめ其たまの光をおなじうてなにむかへてあツく祀をいとなミツ。みたりの人のいひ出しことの葉のしかもミヅからの手してかゝれつるくさぐさ又其ほかの人の句などをもうてなのまへにたいつけてかの人たちのをしえおかれしこの道のいよゝひろくさかりにおこなハれむ事をねぎまをされけり。そもそもかのミたりの世にいまそかりしほどは誹諧に解脱をえてあまねくひと□ミちひかれし人たちなればいま波羅蜜(はらみつ)にありても人々をまもらひミちびきていよゝひろくさかりにおこなはれとハうたがひあらじかし。こは此集のはしがきものしてよと八朗ぬしのいはるゝをいなみけれどふたゝびもミたびもしひてこはれけるにすまひまけてつひにかいつくることかくなむ。

 しなのゝ国中之条のさとにかりずまひする

 静室物我 (印)