花籠図(はなかごず) [目録を見る] [ 宝物解説へ ]
花枝を折って瓶にさして愛でたり、草花を仏前に供えたりすることは古くから行われていたが、籠に生けた花が描かれるようになるのは、中国においては南宋、およそ12世紀頃からである。日本では、水墨画の雲渓永怡筆「花籠図」(常盤山文庫蔵。16世紀)が古作である。17世紀に入ると、狩野山雪(1590~1651)と同時代に生きた漲川永海(ちょうせんえいかい)筆「花籠図」(京都国立博物館蔵)、寛永3年(1626)完成の二条城黒書院廊下杉戸絵などに着色の「花籠図」がみられる。
勝興寺蔵の本作は着色の「花籠図」の古作として注目されてよい作である。落款、印章はなく、作者不詳であるが、描線は緊密であり、構図の安定性も含めて名手の作と言えよう。
複雑に目のつんだ編み目の取手付きの籠の上に、もう一段透いた六つ目網の籠を重ねて全体として瓢箪型を為した中に、牡丹、芙蓉、菊、夾竹桃などを溢れんばかりに生けた様子を描いている。右扇はほぼ余白の金地である。
裏面は「竹図」である。画面右端に3本、中央に2本の竹が垂直に立つ。その間には淡く水の流れが描かれている。左扇には点苔の打たれた岩の上に笹があり、右扇の竹の背後には一重の薔薇かと見える植物が描かれているため、季節としては夏だろう。
一点から下向きに五葉が出る竹の葉の形や垂直に立つ竹の形状は、宮内庁三の丸尚蔵館蔵「厩図屏風」(室町時代)背景の竹と似ている。表面の「花籠図」よりも若干古様に見える。竹の上部の金砂子は蒔き足しとみられ、形状変更の可能性、補筆補彩などを慎重に見極める必要があるが、元和寛永期(1615~44)以前の制作とみてよいだろう。
(高田克宏)
【参考文献】『浄土真宗と本願寺の名宝Ⅰ-受け継がれる美とこころ-』龍谷大学 龍谷ミュージアム,平成28年(2016)