解題・説明
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『源氏物語』の写本を納めた箱である。中世、近世を通して貴族や権力者の子女の教養書として広く読み継がれた『源氏物語』は、中世末頃から公家や大名の子女の輿入れの際の婚礼調度に加えられるようになったと考えられている。本資料は『源氏物語』全54帖の木版の写本を、6個の引出に分納した長方形の箱で、両側面に持ち手がつけられ、持ち運びできるようになっている。天板と蓋を含めた4面は黒蝋色地に菊唐草葵紋を平蒔絵で施し、各引出の前面には中に納められている帖の題名が金泥(きんでい)で記載されている。『富山県の文化財(県指定編)』によれば、本資料は関白鷹司家から勝興寺第20代住職・本成の室として嫁した広悟(?~1867)が、入輿の際に徳川家から贈られたものという。徳川家の家紋の葵紋がつけられているのはこの故であろう。鷹司家からは3代将軍家光に鷹司信房の娘、5代将軍綱吉に鷹司信子が入輿、時代は下がるが13代将軍家定にも鷹司任子(あつこ)が嫁しているなど、徳川将軍家と深い姻戚関係にあるため、婚礼祝いの品として贈られたと考えられる。
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