(2) 工場設置奨励条例の制定と改正

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 前述のように、市役所臨時対策部が企画した軍施設の転換方針に基づく民間会社の進出は、当初数多くの応募があったようであるが、詰まるところ順調には行かなかった。そこで考案されたのが「工場設置奨励条例」で、昭和25年12月1日に公布された。その内容は鈴鹿市内に「産業の興隆と商工業の進展とに寄与する工場を設置する者」に対して奨励金を交付するというもので、「投資額五百万円以上」もしくは「常時使用する工員の数五十人以上」の工場が対象となった。奨励金の額は「当該工場の負担すべき市税の合算額を限度」とし、事業開始の年度から3か年交付された(『同前(条規廃書編2)』)。

 この条例案は公布の前日11月30日の市議会に提出された。提出に至るまでに市役所内部でどういった議論がなされたかは明らかでないが、市議会では杉本龍造市長は「本市に呉羽紡績株式会社毛紡績工場の設置が確定し、これを契機として将来産業都市として飛躍せんとする為、呉羽に限らず各種工場の設置を容易ならしめんとするがため本条例を設けんとするものであります。此の頃は各市共工場誘致に力を入れ、四日市・松阪等も工場の増設があるとの事ですが、相当優遇条件をつけている模様であります。本案はその最低に近いものでありますが、差当りこの条例に基いて工場誘致に努力したいと考えます」と議案説明を行っている。呉羽紡績(株)は市内東玉垣町の旧三菱製作所跡に65,000坪の工場設置を企図し、その設置をめぐって市役所との協議が進んでいた。既に10月16日に鈴鹿市長と同社専務取締の間で協定書を締結し、条例案とともに市議会に上程し承認を求めた。協定書の内容は次項で詳しく述べるが、本条例の議決を見越して奨励金の交付も協定項目に入れており、工場誘致の条件として本条例が制定されたものと思われる。

 こうした工場設置に伴い地方自治体が奨励制度を設けるという条例の制定は、鈴鹿市が県内だけでなく、全国的にも早い時期のものであった。三重県が「県工場誘致条例」を制定するのは昭和31年3月のことで、県の場合は工場誘致審議会が設置され、施設的便宜の供与や奨励金の交付を行う場合には同審議会に諮問することとされた(『三重県公報』第7990号)。この施設的便宜の供与とは、道路の新設・改良、工業用水の新設・改良、工場用地の造成などで、工場設置に対する具体的な県の協力事項が盛り込まれていた。しかし、公布当初はなかなか適用されず、県議会でも適用促進の議論がなされたり、関係団体から適用の要望書が出されたりした(『三重県史』資料編 現代2)。その後、いつまで同条例が続き、適用された工場がどれだけあったかは確認していないが、現在は「県企業立地促進条例」(平成15年3月17日条例第1号、改正平成17年10月21日条例第67号)として補助金の交付などが定められている。10年ほど前に話題になったシャープ亀山工場への90億円補助金(生産縮小に伴い一部返還)は、この条例の認定を受けたものである。

 鈴鹿市の場合、昭和25年当初の工場設置奨励条例では奨励金の交付のみが条文に見られたが、27年8月31日の市議会に奨励金以外に市税の減免措置を追加し、その優遇期間も3年に限らず市長が定めるという改正案が上程された。これは海軍工廠跡地に旭ダウ(株)が進出することを契機とし、市議会では種々批判的な意見も出たものの可決された(『昭和27年議決書』)。さらに、34年12月の市議会でも「工場設置奨励条例を改正する条例」が議決され、大きく改正された。その内容は、奨励措置を受けることができる対象を投資額が5,000万円以上の工場とし、奨励金の交付・市税の減免措置のほか、敷地・道路・排水路事業に対する協力なども明文化された。これは海軍工廠跡地への本田技研工業(株)の進出に伴う改正案の上程で、市議会では対象工場の投資額や拡充工事に関する議論があった。市は投資額3,000万円以上の工場を対象とする案であったが、1億円以上という意見も出て、投資額5,000万円・常用従業員数50人以上の工場を対象とすることで決着し、拡充工事の場合も同様となった(『昭和34年12月鈴鹿市定例市議会々議録』)。

 そして、40年3月に一部改正があったようであるが(『鈴鹿市議会史』資料編)、10年経った44年3月にも同条例の改正があった。その主な内容は、奨励措置の適用基準が新設工場の場合には投資額5億円以上、工場拡充の場合は1億円以上とし、奨励金の額についても課税年度となった翌年を初年度として固定資産税の5割、2年度が3割、3年度が2割に相当する額を限度とした(『昭和44年議決書』)。

 このように時代の趨勢に応じて工場設置奨励条例が見直され、昭和61年には新しく「鈴鹿市工業振興条例」(10月1日条例第32号)が公布された。以後、平成20年まで何度か改正され、現在では新設の場合については投資額5億円(中小企業では1億5千万円)以上、常用従業員15人(中小企業5人)以上が奨励金交付の対象となり、用地取得助成金の交付も盛り込まれている。ここでは詳しく述べないが、市の工業発展施策の一つとして、今も工場設置奨励条例の趣旨が引き継がれているようである。