11、地主と農地解放

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 昭和22年にGHQの指示により、土地所有に関する大規模な改革である農地解放が行われた。地主の土地所有権は大幅に限定され、実際の耕作者たる小作人に安価で売り渡されたのである。小作人の権利は拡大したが、先祖代々の土地を強制的に買い上げられた地主側には、強い不満が残った。白子地区に住む濵浦厚子さんは、先祖伝来の土地を護って来た父方の祖母が農地解放に衝撃を受け、包丁を持ち出し自害すると宣言した思い出を語っている。息子の懸命な説得で翻意したが、戦争の終了が土地の取り上げにつながるとは予想だにしなかったのであろう。

 アンケートの回答者や、それに基づく聞き取り対象者の選択に規定され、小作人の立場よりも地主側の苦労に言及した話が多い。それは農地解放前の戦時中でもそうであった。「非農家」(=地主)の家に生まれた匿名女性は、配給のあり方や共同浴場での会話などを通して、農家の人たちからの疎外感を子供心に味わい、それを「差別」と表現している。戦時中に供出を強制された農家は地主への「年貢」を滞らせるようになり、地主の家でも着物と米の物々交換を余儀なくされる。5町あった田地は農地解放で6反ほどになったが、面積が大幅に減少しただけでなく、農地委員によって反当たり収量の高い土地ほど小作人の手に渡り、水利の便の悪い田ばかりが残ったという。戦中・戦後を通して、地主に対する小作人の立場が、以前よりもずっと高くなっていたとの思いは、他にも樋口慶徳さんら何人かの方が述べているところである。