解説
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「『藤岡屋日記』の世界」:野口武彦『幕末の毒舌家』の主人公、大谷木醇堂による、札差についての考察をまとめた書物。醇堂は、幕府旗本の家に生まれながら、不遇の半生を過ごした人物。随筆・雑著が国立国会図書館等に多く残されている。本書は全22丁の小冊子であるが、20項にわたる細目により、簡潔に札差と馴合その関連する事項を知ることができる。「蔵宿師」に対して醇堂は、「武家の疲労を奇貨とし、其間に入て札差と合、或はその為すへあらざる負債を為し禍心を包蔵して非違を恣にする不逞の徒」と、手厳しい評価を与えている。 「馬琴日記」: 展示箇所では、鷹狩りを催し、能舞台をしつらえた札差をとりあげている。旗本側の醇堂からは、自身の俸給を担保にして金融業を営み豪奢(ごうしゃ)な振る舞いが目立つ札差に対してはよい気持ちがしなかった。しかし、棄捐令(きえんれい)などにより、借金帳消しの可能性がある札差にとっては蓄財が望めず、娯楽に散財するくらいしか術がなかった。馬琴日記に登場する坂倉屋治兵衛は大店の札差で、その番頭や手代が馬琴の揮毫を請う記事が幾度も登場する。また、札差に限らず、伊勢商人の殿村篠斎(とのむらじょうさい)や、松前藩藩主・松前道広など、馬琴が読者との関係を大事にしている姿は日記に頻繁に登場する。
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