二〇万枚の銅銭

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 つぎにこれらの壺のなかにぎっしりつまっていた銅銭はどのようなものであろうか。銅銭はすっかりさびついているものが多く、また納入するさいはバラで入れるのではなく、銭貨の中央の穴に紐(ぜにさしという)を通したまま納められている場合が多く、いっそう固くさびついていた。したがって全体については、調査書作成の段階では未調査で、総枚数の記載はない。その後岡邦祐が教育委員会の委嘱で、一枚一枚を用心ぶかく剥離(はくり)して検討をすすめた結果、全体で約二〇万枚にも達することが判明した。その銭貨を種類別に分類して枚数を整理すると、表11のようになる。すなわちわが国の貨幣では奈良時代に鋳造された万年通宝以下のいわゆる皇朝十二銭のうち三種、中国では後漢の時代に鋳造された五銖(しゅ)を最古とし、隋・唐・蜀・南唐・後周・宋・元・明などの王朝の銭貨、朝鮮、さらに遠く安南の銭貨まで、その種類はすべて九二種に達する。種類と各種類別の数量では北宋の銭貨が圧倒的に多い。またわが国では皇朝十二銭のあとは、江戸時代初期に寛永通宝が鋳造され、江戸時代を通じて流通したが、寛永通宝は一枚も含まれていなかった。なおこれらのなかには、わが国で贋造(がんぞう)されたいわゆる私鋳銭なども含まれているが、くわしくは改めて報告書が公刊される予定という。
 
 

表11 堂坂遺跡出土の銭貨分類表

国名銭貨名初鋳年次(西暦)鋳造時代枚数国名銭貨名初鋳年次(西暦)鋳造時代枚数国名銭貨名初鋳年次(西暦)鋳造時代枚数
日本皇宋通宝1038北宋25604嘉泰通宝1201南宋212
万年通宝760奈良1至和元宝1055北宋2084開禧通宝1205南宋129
神功開宝765奈良1至和通宝1055北宋762嘉定通宝1208南宋577
隆平永宝796平安1嘉祐元宝1056北宋2381大宋元宝1225南宋26
嘉祐通宝1056北宋4811紹定通宝1228南宋246
中国治平元宝1064北宋3621端平元宝1234南宋8
五銖40後漢1治平通宝1064北宋647嘉熙通宝1237南宋69
五銖5811熙寧元宝1068北宋18426淳祐元宝1241南宋188
開通元宝62114410熙寧重宝1071北宋11皇宋元宝1253南宋188
乾元重宝758682元豊通宝1078北宋23304開慶通宝1259南宋22
開通元宝845315元豊折二1078北宋7景定元宝1260南宋152
元祐通宝1086北宋18673咸淳元宝1265南宋134
通正元宝9162元祐折二1087北宋1咸淳折二1265南宋3
天漢元宝9173紹聖元宝1094北宋8141
光天元宝9186紹聖通宝1094北宋2天盛元宝1158西夏1
乾徳元宝91943元符通宝1098北宋2681正隆元宝1157281
咸康元宝9253元符折二1098北宋2大定通宝1170109
唐国通宝959南唐224聖宋元宝1101北宋7359至大通宝130929
開通元宝966南唐100聖宋折二1101北宋4至正通宝13391
漢通元宝948後漢3崇寧通宝1102北宋1
周通元宝955後周36崇寧当十1102北宋1大中通宝136127
清寧通宝10551大観通宝1107北宋2334洪武通宝1368726
乾統元宝11011大観折二1107北宋1永楽通宝14081120
政和通宝1111北宋6852
宋通元宝960北宋731政和折二1111北宋118朝鮮
太平通宝976北宋1717宣和通宝1119北宋472東国通宝4097高麗1
淳化元宝990北宋1769宣和折二1119北宋85海東通宝1097高麗2
至道元宝995北宋3512
咸平元宝998北宋3537建炎通宝1127南宋7安南
景徳元宝1004北宋4694建炎折二1127南宋15太平興宝970安南1
祥符元宝1008北宋5762紹興元宝1131南宋39天福鎮宝984安南6
祥符通宝1008北宋3412紹興通宝1131南宋3
天禧通宝1017北宋4418淳熙熙元宝1174南宋995無文銭20
天聖元宝1023北宋10641紹熙元宝1190南宋226不明146
明道元宝1032北宋1118慶元通宝1195南宋364
景祐元宝1034北宋3220慶元折二1195南宋2総枚数194825

(岡 邦祐作成)