解題・説明
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弥生時代の26号住居跡から発見された顔面付の特殊な土器である。この住居は同時期唯一の大型住居で主柱穴が4本あるが、土器は主柱穴(P-3)付近の床面に倒立して検出されたものである。発見されたのは口縁部のみで胴部以下は発見されなかった。この土器の基本器形は壺形土器であると考えられるが、胴部がどの程度膨らみ、最大径をどの位置にとるかについては不明である。現存している部分の法量は口径10.6cm、残存高さ20.5cmをはかる。胴部から頸部にかけては弱く括れ、口縁部に到って外半ぎみとなって径を広げ、口唇部の端では強く内側に彎曲している。口唇部端の彎曲は通常の壺と異なる点であり、これから見ると壺の中でも細頸壺の器形に類似するものと思われる。制作に当っては輪積み法をとっていて、現存部分の下端には接合面が観察される。器面の調整ははけによって行なわれ、ほぼ全面に認められる。はけの上から4段を1単位とする結節縄文が口縁部上半と頸部中段、肩部にめぐらされている。口唇部端には単節の縄文が密に施文されている。顔は器壁の一部を削り出したような方法を用いて制作され、眉と鼻はこの上に貼り付けられている。眼と口は箆状工具によって一線が引かれたままであり、内部に沈線等の装飾は加えていない。鼻の中段より下には髭状の文様が施されている。これは櫛状の工具を垂直方向に短く動かしながら、上下に何段も重ねて表現したものである。耳は円筒状の粘土を直接貼り付けて作り出したものである。これには焼成前に正面と裏面の2方向から小穴が開けられている。また胎土は精選されており、在地のものとは考えられないものである。
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