としまひすとりぃ
平成とぴっくす

豊島区の平成史を彩る様々な出来事を現場レポート

地域区民ひろば

「地域区民ひろば」はいかにして誕生したのか

郡司 信興

(平成7~11年 保育課長(児童女性部管理課長)/12~15年 企画課長/16年 子ども家庭部長)
関連キーワード:公共施設の再構築
区民ひろばマップ
区民ひろばマップ

1 公共施設の見直しの端緒となった区立保育園廃園

平成7(1995)年の「臨時行財政調査会報告」は、危機的な区財政の立て直しの方策を示しましたが、その中でも「区立保育園5園の廃止」は衝撃的でした。23区で一番と言われる保育水準は豊島区の誇りでしたので 「そこまでやらなくてはならないのか」 と、区の内外で大変な議論を巻き起こしました。
昭和 60(1985)年に比べ措置児童数は20%近く減少し、今後も少子化傾向が顕著であること、さらに区外からの受託児童数が3倍近くに増えていること、などが理由にあげられました。
23区の受託・委託の平均(平成6年5月1日)は、それぞれ103人・87人程度でしたが、豊島区は323人・41人と区外からの受託が圧倒的に多く、千早第二保育園では、区外からの入園者が半数を超えるほどでした。保育所運営費の70%近くを区が負担(平成6年度決算ベース)し、受託収入は4%弱であったため、これ以上の超過負担は区の財政状況からみて限度をこえているとの判断がありました。
この廃園方針に対しては、保護者を先頭に保育関係者の広範な反対運動がくりひろげられましたが、最終的には、4園を廃園することとなりました。
この保育園廃園問題は、その後の区の公共施設の見直しという大きな流れの端緒となるものでした。

臨時行財政調査会報告
臨時行財政調査会報告

2 財政破綻寸前の豊島区

平成8(1996)年、区はこの年を「行財政改革元年」とし、予算規模の大幅な圧縮に踏み切るとともに、「区の財政に赤信号」 と「広報としま」 を通じて全区民に実情を訴え、理解を求めました。毎年、人員の削減、事業の見直しを行うのはもちろん、区の大切な貯金でもある「基金」の取り崩しを行い、いわば自転車操業的な財政運営が続きました。

3 「施設白書」と公共施設の見直し

平成12(2000)年、公共施設が区政に与える影響について分析した「施設白書」を初めて発行しました。この「白書」では、区の公共施設の全貌を明らかにし、その施設関連経費は432億円(平成11年度決算ベース)で、一般会計歳出規模(989億円)の43.7%を占めること、また、歳出全体の52.1%を占める「義務的経費」の約4割を占め、財政硬直化の大きな要因になっていること、さらに、これら公共施設を今後維持していくためには、耐震補強を含め毎年60億円規模の費用が必要となることなどを明らかにしています。
この白書の指摘を受けて、区長を本部長とする豊島区行財政改革推進本部を中心に、全庁あげての公共施設の抜本的な見直し作業が開始されました。

施設白書
施設白書

4 公共施設の再構築・区有財産の活用 「本部素案」 【平成13(2001)年】

豊島区行財政改革推進本部は平成13年10月、「公共施設の再構築・区有財産の活用」(本部素案)を発表しました。この「本部素案」は、保健福祉、子ども家庭、教育など区施設全般を見直し、新たに高齢者、子ども家庭に係る施策の総合的かつ一体的な展開を図る「地域福祉センター」の整備を提起しました。また、その運営についても区民の自主的運営、自主管理に委ねる新たな方向を示しました。

5 公共施設の再構築・区有財産の活用 「本部案」 【平成15(2003)年】

平成13年の「本部素案」をめぐっては、各方面で様々な議論が巻き起こりました。そうした意見を踏まえ、平成15年、素案を見直した「本部案」が提起されました。この案については区長が「規模、内容いずれを見ても豊島区として平成の大改革ともいうべき思い切った内容」と言明するほどのものでした。

本部案
本部案

6 「区民ひろば」 構想

この「本部案」で初めて「区民ひろば」構想が提案されました。この構想は、ことぶきの家、児童館、区民集会室、社会教育会館など、これまで縦割りの施策に基づき整備されてきた施設を、小学校区を基礎単位として地域ごとに集約するものです。
これにより乳幼児から高齢者まで世代を超えた交流が可能となり、しかも地域住民主体による自己決定、自己責任に基づいた活動を促進し、コミュニティの活性化を図るというものです。
「区民ひろば」 は、次の5つの機能を持つものとしています。
① 「いきいきひろば」 高齢者などのいこい・健康増進の場
② 「子育てひろば」 乳幼児の遊び場や保護者の相互交流の場
③ 「活動ひろば」 区民の自主的活動拠点
④ 「学習ひろば」 生涯学習の場
⑤ 「子どもスキップ」 学校施設を活用した小学生のための放課後対策事業
また、「区民ひろば」 は、その運営を地域住民主体による自主管理に委ねることを目標としています。このため各種地域団体等の代表等からなる 「運営協議会」を立ち上げ、自主管理に委ねていくこととしています。

区民ひろば機能
区民ひろば機能

7 小学校区を基礎単位とする「区民ひろば」

この「区民ひろば」を、小学校区を基礎単位として構築することとしたのは、区民が生まれ、育ち、働き、老後を過ごすライフスタイルを実現する場として 「ひろば」が機能するよう考えられているからです。
このため区立小学校の統廃合が今後、どのように推移していくのかを見極める必要がありました。平成9(1997)年の「豊島区立小中学校の適正化第一次整備計画」では、区立小学校29校が23校に再編成されるとしていましたが、今後少子化が進行すると、小学校数もさらに減っていくのではないかと危倶していたからです。
しかし、平成15(2003)年、区長は「これ以上区立小学校を減らすことはしない」と言明し、「区民ひろば」23か所の整備を確約しました。

8 「区民ひろば」と児童館・学童クラブ

この「区民ひろば」構想により、児童館・学童クラブの機能、配置も見直しを行いました。 これまで児童館は区の基本計画に基づき、1小学校区、1児童館を目標に整備され、平成5(1993)年には24館(1か所は民間施設借り上げ)となりました。また、学童クラブも1小学校区、1クラブの基準で児童館内配置22、学校施設内配置 3の計25 クラブが配置、運営されていました。
これまでの児童館では、地域の子育て支援(午前)の事業と小学校児童の放課後対策・学童保育(午後)事業が併存していました。
子育て支援事業は、これまで児童館の午前中の時間を中心に行われてきましたが、午後にも実施してほしいとの要望や実施場所を増やしてほしいとの要望もありました。「区民ひろば」構想では、「区民ひろば」全てに子育て支援の場を午後にも延長し実施することとしました。
一方、小学校児童の放課後対策では、少子化が進む中、学童保育で過ごす児童とそれ以外の児童との分断による遊びへの影響も問題視されていました。国レベルでも小学校の教室・校庭等を活用した放課後対策事業のモデル実施の動きがありました。「区民ひろば」事業の中でこの問題を合わせて検討し、原則的にすべての小学校敷地内に「全児童クラブ」(子どもスキップ)を整備し、学童保育の子もそれ以外の子も、ともに遊べる場を整備することとなりました。
小学校の教室、施設の活用・開放については、厳しい議論の応酬がありましたが、最終的にはすべての小学校で実現されることになりました。

子育てサークル
子育てサークル
南池袋スキップ
南池袋スキップ

9 「区民ひろば」と「ことぶきの家」

「ことぶきの家」は、60 歳以上の区民のためにいこいの場、各種相談の場を基本に、健康増進、教養の向上などを図る目的で 16 館が整備されてきました。そのうち12館ではすでに地域住民の自主運営が行われるとともに、全館でひとり暮らし高齢者を地域で支える「見守りネットワーク事業」や介護予防事業が行われていました。
「区民ひろば」構想では、「ことぶきの家」のこれまでの事業に加え、年齢制限を撤廃し、世代を超えた地域交流の場として再編することになりました。

転倒予防教室
転倒予防教室

10 区民集会室、社会教育会館と「区民ひろば」

区民集会室は、条例設置の39か所のほか、他施設併設のもの、学校開放による教室など100か所近い集会室がありました。また、5か所の社会教育会館も一般区民の活動の場として有力な機能をもっています。 「区民ひろば」では、地域ごとにこれらの施設を、区民の自主的な活動の場、世代を超えた交流の場として再編、有効活用することとしています。
また、集会室等施設の予約、利用料納入システムなどを構築し、利用者の利便性を高めるとともに、「区民ひろば」運営上の事務負担の軽減を図ることとしています。

11 「区民ひろば」の実現へ、モデル実施

平成15(2003)年の「地域区民ひろば」構想の提起以降、区民、関係者、職員などに対する説明会は、約90回、2000人余りの方々を対象に行われました。
その際の様々なご意見を踏まえながら、平成16(2004)年7月、区は、施設整備、全児童クラブの実施方法(学校別施設案)、職員配置、運営協議会設立のステップなどの案を示し、モデル実施をすることとしました。
平成17(2005)年4月から7月にかけて、6小学校区、10施設でモデル実施を行いました。これに伴い、施設の利用制限が緩和され、児童館は18歳以上、ことぶきの家では60歳未満の区民が利用可能となりました。また、ことぶきの家や児童館などで個別に利用登録していた団体が、区民ひろばの利用登録により、いずれの施設も利用できることとなりました。

区民ひろば説明会
区民ひろば説明会
世代間交流「豆まき」
世代間交流「豆まき」

12 22の「区民ひろば」に成長

平成31(2019)年3月末現在、22の「地域区民ひろば」が活動中です。詳しくは、区のホームページをご覧ください。
また、22か所のうち、8か所の運営協議会がNPO法人となっています。

公共施設の見直しは、自治体としては永遠の課題ですが、平成の大不況の中で、しかも豊島区の財政状況の特異性から、平成7(1995)年から10年余にわたり厳しい取り組みを余儀なくされました。
私は保育課長、企画課長及び子ども家庭部長としてかかわってきましたが、住民全員にかかわる問題とは言え、100回近くの説明会、2000人余りの方々とのやりとりは正直、大変でした。
また、区内部でも区長部局と教育委員会・学校間の空き教室の取り扱いをめぐる対立は激しく、怒号の飛び交う会議の連続でした。さらに、子どもたちのしあわせを本当に守れるのか、をめぐって児童館、保育園などの職員との話し合い、労使交渉は毎日のように行われました。
しかし、最終的に「区民ひろば」として、施設の問題だけでなく、地域コミュニティづくりの問題にも一定の結論を導いたことは大きな成果だったかなと思います。

池袋本町NPO設立
池袋本町NPO設立
関連キーワード:公共施設の再構築

関連年表

平成7年 11月 豊島区臨時行財政調査報告、区立保育園5園の廃止を打ち出す
平成8年 1月 4保育園(巣鴨第二、池袋第四、西巣鴨第一、千早第一)の廃止方針決定
4月 豊島区行財政改革推進本部設置(本部長、区長)、平成8年度を行財政改革に位置づける
平成9年 1月 「豊島区行財政改革計画(平成9年度~平成11年度)」策定
9月19日 豊島区立保育所条例の一部改正案を区議会第3回定例会に提出(12年度末で4保育園廃園)、10月7日可決
平成12年 9月29日 「施設白書」「人事白書」「財政白書」及び「行政サービスとコスト」公表
平成13年 10月 豊島区行財政改革推進本部「公共施設の再構築・区有財産の活用(本部素案)」まとまる
平成15年 10月 豊島区行財政改革推進本部「公共施設の再構築・区有財産の活用(素案の修正)」、「地域区民ひろば」構想を打ち出す
平成16年 3月16日 「子どもスキップ南池袋」開設、小学生の放課後対策事業4月スタート
4月1日 「地域区民ひろば担当課長」設置、「地域区民ひろば」構想の小学校区別説明会開催(4月~11月)
平成17年 4月1日 4小学校区(巣鴨・西巣鴨・南池袋・高松)で「地域区民ひろば」モデル実施開始
7月 さくら小学校区(1日~)、朝日小学校区(19日~)で「地域区民ひろば」モデル実施開始
平成18年 4月1日 「地域区民ひろば条例」施行、8小学校区で「地域区民ひろば」本格実施開始(区民ひろば巣鴨、区民ひろば西巣鴨、区民ひろば朝日、区民ひろば南池袋、区民ひろば高南、区民ひろば富士見台、区民ひろば高松、区民ひろばさくら)
平成19年 2月1日 「区民ひろば朋友」開設
4月1日 「区民ひろば駒込」「区民ひろば清和」「区民ひろば池袋本町」「区民ひろば西池袋」「区民ひろば池袋」「区民ひろば千早」開設
平成20年 4月1日 「区民ひろば上池袋」「区民ひろば長崎」「区民ひろば椎名町」開設
平成25年 11月1日 「区民ひろば仰高」開設
平成27年 4月1日 「区民ひろば要」開設
5月1日 「区民ひろば豊成」開設
7月1日 「区民ひろば目白」開設、全22小学校区での実施完了

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