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 2月下旬になると、そろそろ春に近い気配が感ぜられ、融雪が始まり、3月中旬にはすでに平均気温は零度(以下度は摂氏)を越えるようになり、積雪もほとんどなく、北海道の北部や内陸の地域よりは、ひと足早く春めいてくる。
 3月には、時として日本海で低気圧が発達して当地に近づくことがあり、猛烈な春のあらしになり、前節 3 に述べた函館大火の際の測器被害や、本節、次節で後述するように大火発生の要因ともなる。このあと低気圧の後面に入って、一時北西の季節風の吹き返しなどの見られることもあるが、3月の半ばを過ぎれば、そろそろ大陸高気圧は衰えを見せ、北西の季節風は目立って弱まってくる。しかし、一方では北太平洋高気圧の発達までにはまだ間があるので、この隙(すき)間を埋めるように4月から5月のころは、華中方面から移動性高気圧が東進して来て、乾燥した空気が当地方をおおうようになる。
 このころはまた、黒龍江流域から樺太付近を通る低気圧や日本海を北上する低気圧がしばしば現われ、気圧配置としては南高北低型となって、これらの低気圧に向かって南寄りの乾燥した空気が流れ込むことになる。この南寄りの風は何日も連吹することがあり、それも天気のよい日に多く、函館ではかつて″馬糞風″と呼ばれた。当時市内の貨物運搬手段の主力は馬車であり、路上に排せつされた馬糞が乾燥してほこりと共に舞い上がるのでこう呼ばれ、春の風物詩の一つでもあった。
 6月になるとオホーツク海に高気圧が停滞することが多くなり、本州本面では梅雨期に入るが、当地方は、梅雨前線のはるか北側となるので、ほとんど雨はない。しかし、オホーツク海高気圧から吹き出す風は、北海道東方沖の低温多湿の空気を北東の風として当地に送り込んで来るので気温は低く、厚く低い霧雲が立ちこめた、じめじめした暗い天気が何日も何日も続くことがあり、夏を目の前にして憂うつな時期となることがある。この6月の状況は年によって様子が違い、時として7月のはじめまでも持続して夏の到来を遅くすることがあり、農作物に大きな影響を与え、冷害・凶作と騒がれることがある。
 このように函館の春は、3月から6月にかけて約4か月の長い期間にわたる。