北海道では明治12年7月に開拓使函館支庁の主導のもと郡区編制法が導入され、翌13年1月から郡区役所、戸長役場が開庁されることになり、郡区役所、戸長役場経費に地方税規則の考え方が導入された。つまり、区戸長給料のように官費対応の分と大小区入費対応とを合わせて編成替えを行い、(1)地方全体に係る経費、(2)区町村に係る経費、(3)町内限に係る経費とに分類、(1)は地方税をもって対応、(2)は区町村協議費、(3)は連合町内協議費が対応することとなったのである。明治13年2月、函館区役所においてこれまでの大区費小区費及びこれ以外の官民支払費についての検討がなされ、各項ごとにその区分が示されている。これを整理すると表2-35のようになる。大区費中広域な経費と郡区役所へ移行すべき経費は、地方税対応となり、区入費の外にあって民費対応の公立学校費等と大区費小区費の一部が協議費対応、町内会経費要素の強い小区費は、ほとんどが連合町内協議費対応経費と認識されたのである。
ところが開拓使は、北海道では地方税則が掲げた地方税で支出する費目すべてを地方税で対応することは出来ないと判断、(1)については、地方税の支出する費目の内「郡区吏員給料旅費及庁中諸費」「戸長以下給料及戸長職務取扱諸費」のみを取り入れ、郡区役所戸長役場費用という名目とし、税目としては地方税則の「地租五分一以内」「営業税並雑種税」「戸数割」の3種を「地租五分一民費(明治13年度から地租五分一税)」「地方税(明治13年度から営業雑種税)」「戸数割民費(明治14年度から戸数割税)」として取り入れ、さらにこれだけでは不足することから「出港税ヨリ補給額」を付け加えた。この郡区役所戸長役場経費は支庁単位で収支予算が編成された。函館支庁管内の郡区役所戸長役場費用収支予算も、明治13年1月から組まれることになり(表2-36)、戸数割民費の郡区割負担額が表2-37の通り函館支庁から布達された。
郡区役所戸長役場経費は、郡区長、郡区書記、戸長、雇、小使等の人件費と、需用品備品郵便電信費などの庁費(事務費)によって構成され、道路工事等の広域行政経費は開拓使対応のままであった。その後、明治15年に開拓使が廃止され函館県となったとき、函館県所管の地方費が設定され、先の地方税則により地方税で支出する費目として掲げられた費目は、府県会議諸費を除いてすべて取り入れられている。収入の部には地方税として地租5分1、営業雑種税、戸数割税が位置付けられ、その外地方雑収入、北海道の特殊税である出港税、不足分を補う国庫補助金が付加されている。明治10年に開拓使が国税と地方税の税目を決めているが、その際の地方税はあくまでも営業雑種税をさすものにとどまり、ここで初めて地方税という名称が、地方税規則の内容を持つものとなったのである。函館県最初の地方費予算である明治15年度地方収入及地方費予算は表2-38の通りである。
出港税と国庫補助金が地方収入総額に占める割合は、35.61パーセント、41.61パーセントで、本来的には地方費対応税である地方税収入は、雑収入を含めても22.78パーセントにすぎない。他府県における国庫補助金の比率を把握していないので断定できないが、出港税と国庫補助金が収入総額の80パーセント弱を占めるという状況は、かなり特異なものといえるのではないだろうか。この状況は函館県時代を通して変わってはいない。
表2-35 地方税・協議費・連合町内協議費取扱区分表
取扱区分 | 項目 | 元区分 | 備考 |
除く | 町用掛の月給 | 大区費 | |
地方税 | 元区務所雇、小使の月給 | 大区費 | |
地方税 | 元区務所区戸長、雇、小使の筆墨料、宿直弁当料等 | 大区費 | |
地方税 | 元区務所備品需用品 | 大区費 | |
地方税 | 郵便電信費 | 大区費 | |
地方税 | 船車馬雇上ヶ賃 | 大区費 | |
地方税 | 出火焚出料 | 大区費 | |
地方税 | 元区務所備え置き消防器械 | 大区費 | |
地方税 | 元区務所内便所掃除費 | 大区費 | |
地方税 | 悪疫予防費 | 大区費 | |
地方税 | 悪疫予防費 | 小区費 | |
地方税 | 公事掲示場(新築修繕費) | 大区費 | |
協議費 | 行倒人変死人取扱費 | 小区費 | |
協議費 | 公立学枚費 | 民支払 | 従前寄付金・授業料と民費戸賦金の補給で運営 |
協議費 | 塵焼所経費 | 官支払 | 従前官費設置、経費も特別に官費 |
協議費 | 病犬狩犬屍取片付、埋め方等の費用 | 官支払 | 畜犬規則の木札収入積金、のち官費支出 |
町内協議費 | 市中大小便所掃除費 | 官支払 | 官費設立、掃除費も特別に官費 |
町内協議費 | 旧扱所の筆生、小使の月給 | 小区費 | |
町内協議費 | 旧扱所の備品需用品 | 小区費 | |
町内協議費 | 消防器械小破修繕 | 小区費 | |
町内協議費 | 旧扱所小破修繕 | 小区費 | |
町内協議費 | 道路塵捨取片付人足料 | 小区費 | |
町内協議費 | 井戸小破修繕の補欠金 | 小区費 | |
町内協議費 | 旧扱所借地料及借家賃 | 小区費 | |
地主負担 | 夜回番人費 | 民支払 | 民費戸賦金 |
地主負担 | 地価改正地主総代人日当 | 大区費 | |
地主負担 | 町内丈量雇人夫料 | 小区費 | |
有志出金 | 道路・橋梁・下水・坂の手摺・海岸石垣 | 官民支払 | 10円以上は官費、10円以上でも民力あれば民費 |
有志出金 | 町内限り夜学校費 | 民支払 | 町内有志出金で維持 |
有志出金 | 旧扱所建築費 | 民支払 | 町内重立有志出金または諌立金で建設 |
「桜庭為四郎文書」道図蔵より作成
表2-36 函館支庁管内郡区役所戸長役場費用収支予算
明治12年度下半季(13年1月~6月) | 明治13年度(13年7月~14年6月) | 明治14年度(14年7月~15年6月) | ||||||
科目 | 金額 | 科目 | 金額 | 科目 | 金額 | |||
収入予算 | 地方税 地租五分一民費 戸数割民費 出港税より補給額 合計 | 円 1,117.950 1,553.986 13,412.295 7,090.578 23,174.809 | 収入予算 | 営業雑種税(地方税) 地租五分一税 戸数割民費 出港税より補給額 合計 | 円 2,502.200 2,964.800 26,904.150 13,972.850 46,344.000 | 収入予算 | 営業雑種税(地方税) 地租五分一税 戸数割民費 出港税より補給額 合計 | 円 6,418 2,962 26,904 15,820 52,104 |
支出予算 | 函館区役所諸費 同区戸長役場諸費 亀田上磯茅部郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 津軽福島郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 檜山爾志郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 茅部山越郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 合計 | 3,481.165 未設置 1,774.510 2,585.649 2,158.124 1,335.895 2,012.083 2,476.644 1,185.329 757.723 1,280.498 1,551.780 1,284.116 1,292.293 23,174.809 | 支出予算 | 函館区役所諸費 同区戸長役場諸費 亀田上磯茅部郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 津軽福島郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 檜山爾志郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 茅部山越郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 合計 | 4,351.000 2,609.000 3,549.000 5,171.000 4,316.000 2,671.000 4,024.000 4,953.000 2,370.000 1,515.000 2,560.000 3,103.000 2,568.000 2,584.000 46,344.000 | 支出予算 | 函館区役所諸費 同区戸長役場諸費 亀田上磯茅部郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 津軽福島郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 檜山爾志郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 茅部山越郡役所諸費 同郡戸長役場諸費 函館支庁二於テ製造地方税鑑札諸費 合計 | 4,954 3,655 4,222 5,397 5,712 2,670 4,481 3,916 2,448 1,299 2,862 4,483 2,840 3,041 124 52,104 |
明治13年4月1日第29号達書 | 明治13年10月16日第74号達書 | 明治14年7月14日第44号達書 |
『法規分類大全』租税門地方税より作成
表2-37 函館区及亀田上磯郡戸数割税賦課額表
函館区 | 総額に対する比率 | 亀田上磯郡 | 総額に対する比率 | 函館支庁総額 | 達書年月日 | |
12年度下半期 | 3,480.165円 | 25.94% | 2,242.305円 | 16.71% | 13,412.295円 | 13.3.13 |
13年度 | 7587.450 | 28.20 | 4724.460 | 17.56 | 26.904.150 | 13.10.16 |
14年度第1期 | 3434.559 | 25.53 | 2137.589 | 15.89 | 13451.824 | 14.6.21 |
14年度第2期 | 3554.210 | 26.42 | 2227.584 | 16.56 | 13452.326 | 15.1.25 |
15年度第1期 | 3242.666 | 27.55 | 1928.997 | 16.39 | 11769.086 | 15.6.30 |
15年度第2期 | 3356.419 | 28.52 | 2014.040 | 17.11 | 11767.914 | 15.12.27 |
16年度第1期 | 3646.704 | 29.09 | 1911.492 | 15.25 | 12536.652 | 16.6.30 |
16年度第2期 | 3674.279 | 29.26 | 2093.722 | 16.67 | 12557.348 | 16.12.27 |
17年度第1期 | 3674.112 | 29.18 | 2059.652 | 16.36 | 12592.580 | 17.6.25 |
17年度第2期 | 3762.847 | 29.84 | 2045.178 | 16.22 | 12608.420 | 17.12.25 |
18年度第1期 | 3990.000 | 31.54 | 2035.000 | 16.08 | 12651.000 | 18.6.3 |
19年前半期 | 4042.060 | 31.95 | 2024.530 | 16.00 | 12649.000 | 18.12.23 |
19年度第1期 | 3259.000 | 32.29 | 1631.000 | 16.16 | 10094.000 | 19.6.5 |
20年前半期 | 3318.000 | 32.87 | 1577.000 | 15.62 | 10094.000 | 19.12.28 |
『法規分類大全』租税門地方税より作成
表2-38 明治15年度地方収入及地方費予算
  収入之部 | 科目 | 金額 | 備考 |
地方税 内 正租五分ノ一 営業雑種税 戸数割税 地方雑収入 内 函館師範学校付属小学校授業料 博物館縦覧券払代 官舎貸下料 已決囚人雇工銭 出港税 | 34,012円 3,760 6,715 23,537 5,224 258 138 828 4,000 61,348 | 諸会社税、製氷税、炭竃税、藝妓税ほか 収入額の内三県割合高 | |
国庫補給金 合計 | 71,689 172,273 | 地方費補給国庫下渡高 | |
地方費之部 | 警察費 土木費 営繕費 衛生及病院費 教育費 郡区役所諸費 戸長役場諸費 救育費 浦役場及難破船諸費 管内限達書及掲示諸費 勧業費 有害鳥獣獲殺手当 獄署諸費 未決人諸費 已決人諸費 船改所諸費 経費金取扱手数料 合計 | 35,653 3,200 7,822 11,791 17,794 25,747 22,440 960 37 2,178 1,995 845 14,457 1,450 9,282 16,122 500 172,273 | 衛生費、病院費、医学校費、施療患者費 師範学校費、区町村立学校補助金 育児社補助金 農業費、博物場費 |
明治15年10月9日函館県告示第38号『法規分類大全』租税門地方税より作成