地方税と協議費

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 明治11年地方三新法が布告され(後述-第2章第4節)、その内の地方税規則をもって地方税目が定められ、「地租五分一以内」「営業税並雑種税」「戸数割」の3種と規定された。また、地方税で支出する費目も「警察費」「河港道路堤防橋梁建築修繕費」「府県会議諸費」「流行病予防費」「府県立学校費及小学校補助費」「郡区庁舎建築修繕費」「郡区吏員給料旅費及庁中諸費」「病院及救育所諸費」「浦役場及難破船諸費」「管内限り諸達書及掲示諸費」「勧業費」「戸長以下給料及戸長職務取扱諸費」と定められ、区町村限りの入費については、「其区町村内人民ノ協議ニ任セ地方税ヲ以テ支弁スルノ限リニアラズ」となった。つまり広く府県に係る費途は地方税対応となり、区町村限りの費途は協議費対応となったのである。先に示した地所名称区別も改正され、「区入費」とあるところは「地方税」と読み代えられ、官有地第2種第4種の条項は「区入費ヲ賦スル」とあるのを「地方税ヲ賦セサル」と改正(明治12年9月11日太政官布告第34号)された。その後中央官庁で官有地第2種官用地を協議費賦課対象とするか否かについて議論があり、明治15年5月12日に工部省から太政官へ伺書を提出しているが、その伺書中に「従前ノ区入費ヲ分ケテ地方税及協議費ノ二種ニ分割セラレタルモノ」(『法規分類大全』租税門地方税)との認識が示されている。なお、官有地第2種官用地の協議費賦課問題は、明治16年8月3日の太政官達書で「人民ニ使用ヲ許シタルモノヲ除クノ外、其所在区町村協議費ノ賦課ニ応セサル儀ト心得ヘシ」と、官用地には協議費の賦課を認めない旨の見解が示されている。
 北海道では明治12年7月に開拓使函館支庁の主導のもと郡区編制法が導入され、翌13年1月から郡区役所、戸長役場が開庁されることになり、郡区役所、戸長役場経費に地方税規則の考え方が導入された。つまり、区戸長給料のように官費対応の分と大小区入費対応とを合わせて編成替えを行い、(1)地方全体に係る経費、(2)区町村に係る経費、(3)町内限に係る経費とに分類、(1)は地方税をもって対応、(2)は区町村協議費、(3)は連合町内協議費が対応することとなったのである。明治13年2月、函館区役所においてこれまでの大区費小区費及びこれ以外の官民支払費についての検討がなされ、各項ごとにその区分が示されている。これを整理すると表2-35のようになる。大区費中広域な経費と郡区役所へ移行すべき経費は、地方税対応となり、区入費の外にあって民費対応の公立学校費等と大区費小区費の一部が協議費対応、町内会経費要素の強い小区費は、ほとんどが連合町内協議費対応経費と認識されたのである。
 ところが開拓使は、北海道では地方税則が掲げた地方税で支出する費目すべてを地方税で対応することは出来ないと判断、(1)については、地方税の支出する費目の内「郡区吏員給料旅費及庁中諸費」「戸長以下給料及戸長職務取扱諸費」のみを取り入れ、郡区役所戸長役場費用という名目とし、税目としては地方税則の「地租五分一以内」「営業税並雑種税」「戸数割」の3種を「地租五分一民費(明治13年度から地租五分一税)」「地方税(明治13年度から営業雑種税)」「戸数割民費(明治14年度から戸数割税)」として取り入れ、さらにこれだけでは不足することから「出港税ヨリ補給額」を付け加えた。この郡区役所戸長役場経費は支庁単位で収支予算が編成された。函館支庁管内の郡区役所戸長役場費用収支予算も、明治13年1月から組まれることになり(表2-36)、戸数割民費の郡区割負担額が表2-37の通り函館支庁から布達された。
 郡区役所戸長役場経費は、郡区長、郡区書記、戸長、雇、小使等の人件費と、需用品備品郵便電信費などの庁費(事務費)によって構成され、道路工事等の広域行政経費は開拓使対応のままであった。その後、明治15年に開拓使が廃止され函館県となったとき、函館県所管の地方費が設定され、先の地方税則により地方税で支出する費目として掲げられた費目は、府県会議諸費を除いてすべて取り入れられている。収入の部には地方税として地租5分1、営業雑種税、戸数割税が位置付けられ、その外地方雑収入、北海道の特殊税である出港税、不足分を補う国庫補助金が付加されている。明治10年に開拓使が国税と地方税の税目を決めているが、その際の地方税はあくまでも営業雑種税をさすものにとどまり、ここで初めて地方税という名称が、地方税規則の内容を持つものとなったのである。函館県最初の地方費予算である明治15年度地方収入及地方費予算は表2-38の通りである。
 出港税と国庫補助金が地方収入総額に占める割合は、35.61パーセント、41.61パーセントで、本来的には地方費対応税である地方税収入は、雑収入を含めても22.78パーセントにすぎない。他府県における国庫補助金の比率を把握していないので断定できないが、出港税と国庫補助金が収入総額の80パーセント弱を占めるという状況は、かなり特異なものといえるのではないだろうか。この状況は函館県時代を通して変わってはいない。
 
 表2-35 地方税・協議費・連合町内協議費取扱区分表
取扱区分項目元区分備考
除く町用掛の月給大区費
地方税元区務所雇、小使の月給大区費
地方税元区務所区戸長、雇、小使の筆墨料、宿直弁当料等大区費
地方税元区務所備品需用品大区費
地方税郵便電信費大区費
地方税船車馬雇上ヶ賃大区費
地方税出火焚出料大区費
地方税元区務所備え置き消防器械大区費
地方税元区務所内便所掃除費大区費
地方税悪疫予防費大区費
地方税悪疫予防費小区費
地方税公事掲示場(新築修繕費)大区費
協議費行倒人変死人取扱費小区費
協議費公立学枚費民支払従前寄付金・授業料と民費戸賦金の補給で運営
協議費塵焼所経費官支払従前官費設置、経費も特別に官費
協議費病犬狩犬屍取片付、埋め方等の費用官支払畜犬規則の木札収入積金、のち官費支出
町内協議費市中大小便所掃除費官支払官費設立、掃除費も特別に官費
町内協議費旧扱所の筆生、小使の月給小区費
町内協議費旧扱所の備品需用品小区費
町内協議費消防器械小破修繕小区費
町内協議費旧扱所小破修繕小区費
町内協議費道路塵捨取片付人足料小区費
町内協議費井戸小破修繕の補欠金小区費
町内協議費旧扱所借地料及借家賃小区費
地主負担夜回番人費民支払民費戸賦金
地主負担地価改正地主総代人日当大区費 
地主負担町内丈量雇人夫料小区費 
有志出金道路・橋梁・下水・坂の手摺・海岸石垣官民支払10円以上は官費、10円以上でも民力あれば民費
有志出金町内限り夜学校費民支払町内有志出金で維持
有志出金旧扱所建築費民支払町内重立有志出金または諌立金で建設

 「桜庭為四郎文書」道図蔵より作成
 
 表2-36 函館支庁管内郡区役所戸長役場費用収支予算
明治12年度下半季(13年1月~6月)
明治13年度(13年7月~14年6月)
明治14年度(14年7月~15年6月)
科目
金額
科目
金額
科目
金額
収入予算
地方税
地租五分一民費
戸数割民費
出港税より補給額
合計

1,117.950
1,553.986
13,412.295
7,090.578
23,174.809
収入予算
営業雑種税(地方税)
地租五分一税
戸数割民費
出港税より補給額
合計

2,502.200
2,964.800
26,904.150
13,972.850
46,344.000
収入予算
営業雑種税(地方税)
地租五分一税
戸数割民費
出港税より補給額
合計

6,418
2,962
26,904
15,820
52,104
支出予算函館区役所諸費
同区戸長役場諸費
亀田上磯茅部郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
津軽福島郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
檜山爾志郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
茅部山越郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
合計
3,481.165
未設置
1,774.510
2,585.649
2,158.124
1,335.895
2,012.083
2,476.644
1,185.329
757.723
1,280.498
1,551.780
1,284.116
1,292.293
23,174.809
支出予算函館区役所諸費
同区戸長役場諸費
亀田上磯茅部郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
津軽福島郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
檜山爾志郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
茅部山越郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
合計
4,351.000
2,609.000
3,549.000
5,171.000
4,316.000
2,671.000
4,024.000
4,953.000
2,370.000
1,515.000
2,560.000
3,103.000
2,568.000
2,584.000
46,344.000
支出予算函館区役所諸費
同区戸長役場諸費
亀田上磯茅部郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
津軽福島郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
檜山爾志郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
久遠奥尻太櫓瀬棚郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
寿都島牧歌棄磯谷郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
茅部山越郡役所諸費
同郡戸長役場諸費
函館支庁二於テ製造地方税鑑札諸費
合計
4,954
3,655
4,222
5,397
5,712
2,670
4,481
3,916
2,448
1,299
2,862
4,483
2,840
3,041
124
52,104
明治13年4月1日第29号達書
明治13年10月16日第74号達書
明治14年7月14日第44号達書

 『法規分類大全』租税門地方税より作成
 
 表2-37 函館区及亀田上磯郡戸数割税賦課額表
函館区
総額に対する比率
亀田上磯郡
総額に対する比率
函館支庁総額
達書年月日
12年度下半期
3,480.165円
25.94%
2,242.305円
16.71%
13,412.295円
13.3.13
13年度
7587.450
28.20
4724.460
17.56
26.904.150
13.10.16
14年度第1期
3434.559
25.53
2137.589
15.89
13451.824
14.6.21
14年度第2期
3554.210
26.42
2227.584
16.56
13452.326
15.1.25
15年度第1期
3242.666
27.55
1928.997
16.39
11769.086
15.6.30
15年度第2期
3356.419
28.52
2014.040
17.11
11767.914
15.12.27
16年度第1期
3646.704
29.09
1911.492
15.25
12536.652
16.6.30
16年度第2期
3674.279
29.26
2093.722
16.67
12557.348
16.12.27
17年度第1期
3674.112
29.18
2059.652
16.36
12592.580
17.6.25
17年度第2期
3762.847
29.84
2045.178
16.22
12608.420
17.12.25
18年度第1期
3990.000
31.54
2035.000
16.08
12651.000
18.6.3
19年前半期
4042.060
31.95
2024.530
16.00
12649.000
18.12.23
19年度第1期
3259.000
32.29
1631.000
16.16
10094.000
19.6.5
20年前半期
3318.000
32.87
1577.000
15.62
10094.000
19.12.28

 『法規分類大全』租税門地方税より作成
 
 表2-38 明治15年度地方収入及地方費予算
 
収入之部
科目
金額
備考
地方税
内 正租五分ノ一
 営業雑種税
 戸数割税
地方雑収入
内 函館師範学校付属小学校授業料
 博物館縦覧券払代
 官舎貸下料
 已決囚人雇工銭
出港税
34,012円
3,760
6,715
23,537
5,224
258
138
828
4,000
61,348
 
 
諸会社税、製氷税、炭竃税、藝妓税ほか
 
 
 
 
 
 
収入額の内三県割合高
国庫補給金
  合計
71,689
172,273
地方費補給国庫下渡高
地方費之部警察費
土木費
営繕費
衛生及病院費
教育費
郡区役所諸費
戸長役場諸費
救育費
浦役場及難破船諸費
管内限達書及掲示諸費
勧業費
有害鳥獣獲殺手当
獄署諸費
未決人諸費
已決人諸費
船改所諸費
経費金取扱手数料
  合計
35,653
3,200
7,822
11,791
17,794
25,747
22,440
960
37
2,178
1,995
845
14,457
1,450
9,282
16,122
500
172,273
 
 
 
衛生費、病院費、医学校費、施療患者費
師範学校費、区町村立学校補助金
 
 
育児社補助金
 
 
農業費、博物場費
 
 
 
 
 
 

 明治15年10月9日函館県告示第38号『法規分類大全』租税門地方税より作成