町会所蓄積金の経理調査

358 ~ 360 / 1505ページ
 体制を整えた函館支庁は、ついに町会所蓄積金の経理にメスを入れた。明治10年9月28日に函館支庁の主任官に就任した時任為基権大書記官の仕事始めである。同年11月14日常野与兵衛をそれまで欠員であった14区戸長に任命し、副戸長に山崎清吉、榊吉右衛門を起用、興村忠兵衛、安浪次郎吉、工藤弥兵衛、杉野源次郎、渋田利右衛門、石田四郎右衛門、渡辺熊四郎等に町会所蓄積金調査委員を命じた。常野与兵衛、山崎清吉を中心に1か月余をかけて調査が続けられ、1000円余の使途不明金の存在が明らかにされたという。問題が問題だけにこのことを立証できる史料は確認できなかったが、「故常野正義氏の功労」(大正10年10月13日「函館毎日新聞」)には、「区の財政状態を検査させた所が、結果は区長(戸長の間違い)の白鳥衡平が千四、五百円の公金を費消して居り」とあり、また岡田健蔵著『函館百珍』には、「どう云う間違ひであったか公有金費消と云ふ忌はしい問題が世人を賑はす様になった。山崎清吉が一目瞭然と調べ上げたので、二千余円と云ふ大穴を見付け出した」とあるので、何らかの使途不明金があったことは間違いないようである。このため主任戸長白鳥衡平は、12月18日依願免職という形で辞職させられ、副戸長大橋宇左衛門、同伊藤重兵衛以外の戸長副戸長は11年3月までに辞職交代させられた。
 函館支庁は明治10年12月支庁第45号広告で「函館町会所蓄積金穀ノ員数、従来精密ノ調査無之ニ付、今般官民ノ内ヨリ委員ヲ命ジ調査セシメ候処現在ノ金穀左ノ通ニ候」と、町会所蓄積金調査結果を広告した。この広告の金額は明治11年の出納表を広告する際(明治12年2月)に訂正されているので、その訂正表と明治11年の出納表(表2-41、42)を次に掲げておく。この表中の米は、前述した明治3年購入の予備米の残りで、11年6月にすべて売却され、代金4270円余は同年11月に区戸長の嘆願により人民共有金に組入れられた。また、この町会所蓄積金調査完了祝賀会が11年1月5日に上大工町の協同館で開かれ、函館新聞の創刊号には次のコメント付で祝賀会の模様が載せられている。
 
平民が官員と一座の宴会を開いたなどといふは当港では是が初りでありますが、こういふ事があるようならば追々上下の情実も通る様になり至極よいこととおもわれます。
(明治十一年一月七日「函新」)

 
 明治11年4月、町会所蓄積金の経理問題を処理した功により、常野与兵衛が函館3大区の区長に任命された。この時点での各大区の副戸長(戸長は各大区とも欠員)は次のとおりで、蓄積金調査委員からの起用が目立っている。

 十四大区副戸長 大橋宇左衛門、榊吉右衛門、枚田要蔵

 十五大区副戸長 伊藤重兵衛、興村忠兵衛、渋田利右衛門

 十六大区副戸長 安浪次郎吉、杉野源次郎、山崎清吉

 この町会所の人事刷新と同時に、次の2点を改正して、町会所経理の公正を期した。

 1、副戸長山崎清吉を町会所出納取扱に任じ、経理担当を専務制とする。                    

 1、町会所の経理精算書を年2回(7月と12月)一般市民に公開縦覧すること。

 
表2-41 町会所蓄積金穀調査正誤表(明治10年12月)

種別
広告高
修正高
増減
蓄積米
現在金
貸金
繰替
 
合計
485.9345石
1,415.713円
10.240.060円
2,787.613円
 
米 485.9345石
金 14,443.386円
485.9345石
1,415.713円
10,054.429円
2,742.863円
 
米 485.9345石
金 14,213.005円
0
0
△185.631円
△44.750円
 

△230.381円

「桜庭為四郎文書」道図蔵より作成

 
表2-42 町会所蓄積金明治11年出納表   単位:円
受之部
払之部
種別
金額
種別
金額
明治10年12月より繰越高
改革之際調洩有銭
払下物品
積穀払下
共有地貸地料
共有地貸家賃
地所建物払下
貸金預ヶ金利子
雑受
合計
14,213.005
103.500
601.580
387.904
1,112.206
103.500
601.580
387.904
38.264
18,203.771
改革前預り金
学資金
共有地に係る諸費
共有地南新町下水修繕
青柳町地所買受
仲浜町地費及建家営繕費
雑払
 
 
合計
569.066
379.171
85.514
222.457
76.195
2,660.197
50.530
 
 
4,013.130
 差引残金
内訳
 貸金繰替及区入費追算
 貸付会所預ヶ金
 現金
14,160.041
 
6,607.567
5,000.000
2,553.567

「桜庭為四郎文書」北海道立図書館蔵より作成