戒厳令の施行

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 次いで2月14日、長崎、佐世保、対馬、函館の4か所に戒厳令が施行された(明治37年2月16日付「函館新聞」)。前掲の「日誌」は、この件について次のように記している。
 
(二月)十四日、勅令三十九号ヲ以テ函館要塞地帯及ヒ之レニ関スル要塞地帯法第七条第二項ノ区域内ヲ臨戦地境トシ、本令発布ノ日ヨリ厳戒ヲ行フコトヲ宣告セラレタリ。其筋ノ注意ニ依リ、尚又本日付ヲ以テ当港出入船舶ノ航路及信号注意方ヲ告示セリ。

 一般に戒厳令の施行に際しては、「敵の合圍若くは攻撃其他の事変に際し警戒す可き地方を区画して合囲の区域と為す」「合囲地境」の場合と、「戦時若くは事変に際し警戒すべき地方を区域と為す」「臨戦地境」の場合とがあったが(「戒厳令」第2条、同年2月17日付「函館新聞」所収)、この函館に施行されたのはやや軽度な後者であった。しかも、その施行地域は函館要塞区域内であったため、函館区のみならず亀田郡亀田村、同湯の川村、同銭亀沢村、同大野村、上磯郡上磯村、同茂辺地村、石別村の各管内に施行された(同日付同前紙)。
 そして、この「臨戦地境」内では、「地方行政事務及び司法事務は、軍事に関係ある事件を限り其地の司令官」が「管掌の権」を持つと共に(第9条)、次の点に関しても司令官が執行権持っていた(第14条)。
 
イ、集会若くは新聞雑誌公告等の時勢に妨害ありと認むる者を、停止する事
ロ、軍需に供すべき民有の諸物品を調査し、又は時機に依り其輸出を禁止する事
ハ、銃砲弾薬兵器其の他危険に渉る諸物品を所有する者あるときは、之を検査し時機に依り押収する事
ニ、郵便電信を開緘し、出入の船舶及び諸物品を検査し並に陸海道路を停止する事
ホ、戦状に依り止を得さる場合に於ては、人民の動産、不動産を破壊燬焼する事
(同日付同前紙)

 
 その上、司令官の執行によって生ずる損害については、一切これを「要償」する必要はなかったのである。