○蒔植并採収 五月一日種蒔 六月十五日植付 十月六日苅採
○培養并施糞 植付ノ後馬糞ヲ施スコト一度、草ヲ採ルコト三度、虫害等無レ之
○耕鋤并器械 在来普通ノ鍬ヲ以テ耕シ同ジク鎌ヲ以テ苅取ル
○製造并貯蓄 稲ヲ陽乾シテ後鉄製センバ扱(コキ)ヲ以テ籾(モミ)ト藁(ワラ)ト分離シ而シテ木製ノ磑(イシウス)ニテ磨摺シ玄米トナシ俵ニ詰メ貯蔵ス。将数年貯蔵スルニハ籾ノ儘俵詰トナス
明治二十五年七月『北海之殖産』二十号に、このころ亀田地方で良種として栽培された品種として、白鬚(ヒゲ)早稲、新平早稲、赤鬚早稲、仙北早稲、リントク早稲を挙げ、その来歴を次のように記している。
白鬚早稲 青森県人広瀬某なる者今より四十二年前即ち嘉永三年青森より輸入し来り耕作せしを以て始とす。本種は能く亀田地方に適し、方今に至り毎戸之を耕作せさるものとなしと言ふ。米質頗る佳良にして平年の収獲一反歩五俵内外なりと
新平早稲 亀田郡大野村の農、松本新平氏明治十年の頃白鬚早稲の出穂早きものを撰出し、慚次蕃殖したるものなりと。故に称して新平早稲と言ふ。収量は前種と同じく、唯品質に至りては稍劣れりと雖、能く寒冷の地に適するを以て人の賞用する所となれり
赤鬚早稲 本種も亦明治二十年の頃亀田郡大野村松田仁三郎氏白鬚早稲の内より変り穗にして能く霜に堪へ且つ性質強硬なるものを撰出したるものにして、米質は新平早稲に及はすと雖、寒冷の地に生育し凶年と雖収実あるを以て賞用せられる。一反歩平年五俵の収獲ありと云ふ
仙北早稲 本種は亀田郡大野村前田寅之助氏、明治十三年の頃秋田県鹿角村より取り寄せ、耕種したるを以て嚆矢とす。米質良好、収獲最も多く、稿稈の伸暢他種に優るを以て賞せらる。一反歩の収獲常に五俵半なりと云ふ
リントク早稲 本種は文久元年の頃秋田県北秋田郡九条原の人、佐々木酉松なる者同地より持ち来り、蕃殖したるものなりと云ふ。此種は亀田地方に於て耕作する糯稲中にありて収獲最も多く、品質善良なるを以て用らる。平年一反歩より四俵半を獲ると云ふ
また、『北海道庁第七回勧業年報』によれば、稲作試験の状況を次のごとく記している。
亀田郡七飯村稲作試験場
明治二十六年二月亀田郡七飯村ニ稲作試験場ヲ設置シ諸種ノ試験ヲ行ヒタリ。而シテ該試験ニ用ヒタル種子ハ白鬚、近成、三化、南部、赤稲ノ五種ニシテ、白鬚ハ二月二十七日清水一斗ニ付食塩四升五合ノ割ヲ以テ撰種ヲ行ヒ、赤稲ハ四月十四日箕撰ヲ行ヒ、孰モ流水中ニ浸セリ。四月十九日浸水セシ種籾ヲ流水中ヨリ出シ、漸次日光ヲ受ケシメ発芽ヲ促シ、四月二十八日苗代一坪ニ付人糞一升ノ割ヲ以テ施肥シ、五月二日ニ至リ苗代一坪ニ付参合ノ割ヲ以テ下種セリ。然ルニ下種ノ当時ニアリテハ気候寒冷、加フルニ降雪連日ニ亘リ、発芽ニ十日ヲ要シ、五月十二日ニ至リ発芽セリ。六月三日苗代一坪ニ付鯡粕百二十匁ノ割ヲ以テ追肥ヲナシ、除草ヲ行フコト二回ナリシガ、播種後殆ンド六十日間ニシテ苗ハ適当ノ度ニ成長シ、六月二十七日ヨリ同二十九日ニ至ルノ三日間ニシテ全ク挿秧シタリ。本田ハ五段一畝一歩ニシテ五月上旬牧草圃一反歩ニ付堆糞二百貫匁ノ割ヲ以テ施シ置キ新ニ耕鋤シテ水田トナシタルモノナリ。六月二十一日一反歩ニ付鯡粕五貫匁ノ割ヲ以テ施肥シ、一坪ノ株数ハ四十乃至四十五株ニシテ一株四、五本ヲ挿秧シ、七月上旬雁爪打ヲナシ、七月下旬二番除草八月上旬三番除草八月中旬四番除草ヲ行ヒ、本田挿秧後四番除草ノ頃ニ至ルマデハ晴天平穏ノ日多キヲ占メ、成育ノ模様良好ナリシモ同月下旬ヨリ気候頓ニ冷気ヲ加エ、殊ニ九月四日暴風雨アリテ参化早稲ノ如キハ抽穂並開花ニ際セシヲ以テ非常ノ損害ヲ蒙レリ。九月下旬ニ至リテハ一株大抵十乃至二十五本ニ分蘖(ブンケツ)シ、赤稲ハ高サ二尺内外、白鬚、南部、三化、近成ノ四種ハ高サ二尺五寸乃至三尺五寸ニ達セリ。
[米作の記録]
坪刈成蹟
明治二十五年、六年ころ亀田地域では前記五種のほかにも、右の赤稲、三化、近成などが作られていた。赤稲、三化、近成について『北海道庁第七回勧業年報』上白石村稲作試験場の項に次のごとく説明している。
○赤稲 岩手県盛岡地方ニテ栽培スル種類中最モ早熟ノモノニシテ有芒ナリ。米粒小ニシテ風味良好ナリ
○三化 四、五年前近成種ヨリ撰出セル種類ニシテ、抽穂ヨリ登熟ニ至ルノ間、芒色ニ変スルヲ以テ此名アリ
○近成 一名文助ト称シ、今ヨリ十二、三年前文助ナル人之レヲ作リ出セシヲ以テ此別名アリ、乾湿両田ニ適シ、品質稍劣等トス
その後亀田地方においては、明治初期以来の白鬚及び明治二十六年七飯稲作試験場において試作された中から、南部、三化などの品種が多く作られるようになった。
また、『渡島国状況報文』は、明治三十九年の亀田地域の稲作について次のように記している。
馬鈴薯ニ次テ作付反別ノ多キハ稲ニシテ、前期四百六十二町一反歩ノ水田ハ、略ボ皆作付ヲナセリ。稲ノ種類ハ白鬚最モ多ク、南部早稲、三化等之ニ次ク。肥料ハ一反歩ニ付人糞十駄内外ヲ施シ、平年八斗乃至一石二斗ノ収穫アレドモ、近年凶作多クシテ耕作者ノ困難言フ可ラザルモノアリ。