銭亀沢の二万三〇〇〇年前頃の植生・気候環境

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 戸井町小安町郵便局の裏手には、標高二〇メートルほどの段丘末端の崖がある。ここで見られる露頭の下半部は厚く「銭亀沢火砕流堆積物」によって占められているが、その上に火山灰を挟む円礫層が累重し、さらに上に粘土層・泥炭層が重なり、再び円礫層に覆われている。放射性年代測定と花粉分析のための試料は、この泥炭層から取り出された(紀藤ほか、1993)。
 まず、この泥炭の年代は約二万三〇〇〇年前(23,300±460y.B.P.(N-5781))を示した。この露頭に近い別の地点で、約八〇センチメートル低い層準から得た泥炭の年代値を鴈沢ほか(1990)が出しているが、これは25,100±790y.B.P.(N-5686)という年代を示した。この年代は、いずれも最終氷期最盛期より幾分前の頃である。
 この露頭の泥炭層については二センチメートルごとに九つの試料が採取された(紀藤ほか、1993・図2・1・10)。花粉分析の結果は、全体として上下の変化はなく、一貫してトウヒ属が全体の約半分を占め、つぎに多いのがマツ属で八~一〇パーセント(最大値は三二パーセント)となる。カラマツ属も連続して現れ、モミ属も見られる。落葉広葉樹の出現頻度は低い。こうしたトウヒ属が優勢で、マツ属やカラマツ属が比較的に高率で出現する植生環境が復元された。
 ところで、鴈沢ほか(1990)が小安の別地点で行った泥炭の花粉分析結果は、上下二種類の地層グループ(Ko-1とKo-2)に分帯された。下位の地層グループKo-1からは、ほぼトウヒ属を中心とし、カンバ属(シラカバなど)、ハシバミ属、シデ属など落葉広葉樹を僅かに混じえるもので、暗いタイガ的な森林が想定された。また、上位の地層グループKo-2からはトウヒ属とともに、カラマツ属やマツ属を従える組成から、明るいカラマツ林が成立し、林床でマツが生えるような環境が推定された。これは、現在のサハリン南部程度の気候から、サハリン北部からシベリア大陸程度の寒冷な気候に移行したとみられている。
 今から約二万三〇〇〇年前の銭亀沢には、いっそう寒く、現在のシベリア大陸におけるような気候環境が卓越していたのである。