氷期最盛期の道北や根室地方のようにもっと厳しい環境、すなわち年平均気温がマイナス三度以下で、不連続的な永久凍土が作られる場所だと、アイスウエッジカストあるいはソイルウエッジと呼ばれる凍結割れ目が生じ、それらが発見されているが(三浦・平川、1995)、銭亀沢では、まだ確認されていない。おそらくそこまでの寒さとはならなかったのであろう。
興味深いのは、地表に近い降下火山灰層や粘土層、あるいは表層土壌中にはこのような擾乱が全く生じていない。すなわち、堆積したままの状態である。これはとりもなおさず、後氷期に銭亀沢が温暖化して、このような周氷河現象が生じなくなったことを示している。
以上のように、銭亀沢の自然環境は、およそ四万年前の銭亀沢火山の活動による大火砕流の発生という特別な異変の証拠を厚い火砕流堆積物として残すとともに、その後に訪れた厳しい寒冷化の諸現象を、花粉化石や埋没樹木、あるいは地層の乱れが物語っている。函館の環境変遷の基本型は、地盤の上昇と海面変動に由来する海岸段丘の形成あるいはそれに呼応する平野形成であったが、それに加えて、多彩なエピソードがあったことを、銭亀沢の自然は教えてくれる。
函館空港拡張工事現場の化石周氷河現象
最終氷期の寒冷気候を反映した地層の波打ち現象(インボリュージョン)で、火山灰層や粘土層の場合、顕著に見られることがある。後氷期に堆積した表層部の地層にはこの現象は見られない。