銭亀沢の海藻研究

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 銭亀沢の海藻分布に関する研究としては、志海苔海岸での新藤(1972)の報告がある。昭和四十六(一九七一)年七月から翌年三月まで七回の平磯採集で、緑藻七属七種、褐藻一六属二一種、紅藻三九属五七種、海産顕花植物二属二種、合計八七種が記載されている。さらに、銭亀沢をはさむ周辺海域では、恵山町尻岸内における川端(1959)および函館市立待岬での比良・黒瀬(1972)による詳細な報告があり、これらの記載種も銭亀沢に分布する可能性が高い(表2・3・1参照)。
 なお、新藤は記載種から暖流系一四種と寒流系一七種を見いだし、その比率を渡島半島各地沿岸と比較し、志海苔は寒暖両海流の影響下にあるがやや寒流の影響が大であると考察している。このことは銭亀沢沿岸では夏から秋に津軽暖流域となるが、冬から春の一時期に親潮が接岸するという大谷(1987)の報告とよく符合する。
 また、津軽海峡のような暖流と寒流の混合海域では、水温や塩分、栄養塩濃度の周年変化のパターンは年によって異なる。一般に海藻類の寿命は長くても数年であり、銭亀沢付近が北限または南限にあたる種類では、年による寒暖変化にともなって消長を繰り返すことが予想される。たとえば、親潮強勢で冬季の水温が低下した年にはミツイシコンブのような寒冷種が繁茂し、逆に暖流強勢の年ではホソメコンブのような温暖種が増加する。したがって、文献記載種は必ずしも現在の分布を正確に表すとは限らず、その当時の海洋環境を反映したものとみなすべきであろう。

表2・3・1 銭亀沢地区の主な海藻類