漁民の就業事情

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 この頃の漁民と漁夫の状態は、『予察調査報告』によると、「鰛漁民ニ二種アリ常住漁民ト入稼漁民是ナリ…此等漁民(常住漁民・筆者)ノ内、自ラ階級アリテ其独立営業ヲ為スモノハ重モニ大ナル漁民ニ属シ歩方営業ヲ為スモノハ重モニ小ナル漁民ニ属ス…渡島国各郡ニ於テハ概シテ小ナルモノ多シ…(小ナル漁民・筆者)ハ歩方営業即チ十数人若クハ二十余人相合シ一統ヲ営ムモノアリ概シテ鰛漁民ノ富ハ鰊漁民ノ如ク貧富ノ差懸隔甚シカラズシテ大ナル富豪ナク亦甚シキ貧者ナシ是レ蓋シ其営業法ニ基因スルモノナリ」とある。
 これによると、道内の鰯漁業地帯の常住漁民は、「独立営業ヲ為ス大ナル漁民」(=網元)と「歩方営業ヲ為ス小ナル漁民」(=小漁民)とに分かれており、渡島地域の漁村地帯では、歩方営業に参加する小漁民がその主体を為していた。
 そして、これら小漁民は、「渡島国各郡ニ於テ歩方営業ヲ為スモノニ限リ皆各地ノ小漁民若クハ雑業者ニシテ春期ニ於テハ西海岸地方ノ鰊雇夫ト為リ夏期ニ至レバ自村ニ帰リテ昆布採収及漁業ニ従事シ秋冬ノ候ニ至レバ鱈若クハ其他漁業ニ従事スルモノタリ」とあるように、鰯漁の時期には、鰯漁の歩方営業(後述)による共同経営に参加するほか、春は日本海沿岸地帯への鰊(にしん)漁業出稼ぎ、夏は地元における昆布採取、秋冬は鱈釣り漁業などの自家漁業に従事していた。
 小漁民が鰯漁で取得する収入は、「大約一人一期三十円乃至五十円ニシテ恰モ雇夫ノ給料及食料ヲ合シタルモノト相当」していた。道南鰯漁業地帯における鰯漁一期漁民一人分の収入は、表3・1・6のようになっていた。

表3・1・6 鰯漁の1人分の収入高