鰯漁業の営業組織には、独立営業と歩方営業があり、独立営業は主に胆振・日高地域に多く、歩方営業は主に渡島地域でおこなわれていた。
歩方営業では、「漁場、漁具、漁船、干場及ビ製造器具一切ヲ所有スル漁業者」(親方=網持)と、「一個独立ノ漁業ヲ為ス能ハザルモノ(歩方)十数人乃至二三十人」が一つの網組を組織して、歩方が、親方から、漁場、漁具、漁船および干場付属品、食料を含む一切の資材物資を借り受け、漁期中は、納屋(漁舎)に入って、漁夫として漁業に従事し、漁期終了後に、親方と歩方がその収獲物を配分することになっていた。この場合、親方が負担するのは、漁具、漁船、干場および製造器具などであり、歩方は、各自の食料と諸雑費を負担した。また製造に使う縄、筵、薪および税金などは、親方が三分、歩方が七分を負担するのが一般であったが、食料、雑費以外の一切の費用を親方が負担するものもあった。
歩方営業の方法は地域によって異なるが、『予察調査報告』には、標準的事例として亀田郡石崎村の方法が紹介されている。
村内ノ漁民二十四五人ヲ以テ組織シ夏鰛ノ期節ニ於テハ自家ニ寝食シ魚群来ルノ報アレバ一同納屋ニ集マル又秋鰛ニ至レバ一同納屋ニ寝食シ食料ハ各自平等ニ持出シ親方ニ於テ立替へ若クハ貸与スルコトナシ而モ其親方ト歩方トノ負担及分配ノ割合ハ(親方三分、歩方七分・筆者)…唯之ヲ分配スルニ売上代金ヲ以テセズシテ生粕ヲ以テスルガ故ニ歩方ハ各々自宅ニ持行キテ干燥シ自由ニ売却ス是ヲ以テ終漁ノ期ニ至レバ納屋親方(監督人・筆者)其漁期中ニ要シタル諸費ヲ帳簿ニ拠テ読ミ挙ゲ各人数ニ割賦シテ出金セシム
又此方法ハ年々ノ継続営業ナレバ無断ニテ其歩方ヲ脱スルヲ得ズ若シ事故アリテ脱セントスルトキハ前以テ其旨ヲ通ジ他人ニ其株ヲ譲ルノ定メトス又年ヲ限リ一時休業セントスルカ若クハ自身納屋入スル能ハザルトキハ代人ヲ出スノ定メトス然ルニ近年鰛漁ノ稍好景気ナル為メ雇夫ヲ以テ代人ト為シ数ケ所ノ歩方ニ加入スルモノアリ従テ雇夫ト歩方ト其数殆ド相半スルモノアリ
このように、歩方営業は、生産手段を所有する親方と労働力を提供する歩方の共同生産組織ということになる。この関係を、両者が経営責任を分担する共同経営とするか、雇用関係と認めるべきかといった問題はあるが、地縁・血縁関係を基礎とした団体規制の下に作られた生産組織とみることができる。