ここは主峰恵山と海向山の2峰と外輪山からなる活火山で、地域としては、御崎、恵山、柏野の一部からなる自然豊かな地域である。
御崎地区、恵山地区の両地域は、津軽海峡に面し後背地として山々が屏風のように連なって見える。
特徴ある植生としてツツジがあるが、山麓にはカシワ林があり、トドマツ、スギの植林が良く管理されている。また林間には成長したミズナラもみられる。下草には、ササが密生し林内にはマイヅルソウなどの下草が占めている。このため野鳥の繁殖に適した環境を形成している。
御崎地区は、椴法華村元村地区と接しているものの、海岸は断崖絶壁で隔絶されていて人車の往来することはできない。このため同地は絶好の海鳥繁殖地として北海道でも数少ない場所となっている。目視観察では、ウミウ、ヒメウ、オオセグロカモメ、ケイマフリの繁殖を確認した。絶壁にはハヤブサが生息し、陸上、海上で索餌行動をとっていることは海上観察の結果からも明らかである。周辺海域は海が白濁するほどのプランクトンの発生を見る海で、先の海上観察でも海鳥繁殖について多くの研究者の示唆するところである。この他にも、カンムリカイツブリ、アカエリカイツブリ、クロガモ、シノリガモ、ホオジロガモ、ウミアイサ、などの越冬地としても掲げることができる。
一方、山地、森林、草原では、夏期多くの南方系の野鳥が繁殖している。その多くは3月から、4月にかけて渡来し、雄は雌に先んじて渡来すると直ぐ繁殖場所の選定、縄張りの設定、ソングポストの設定をし囀る。
そして隣接する他の野鳥との縄張り争いを避けるための行動をとる。この様にして野鳥は繁殖し、育雛しながら秋の渡去期の到来を待つのである。
山野の鳥としては、国の天然記念物のクマゲラを初め、キツツキ類としてのヤマゲラ、アカゲラ、オオアカゲラ、コゲラ、アリスイ、など日本産11種のうち6種を確認した。
サンショウクイ スズメ目サンショウクイ科サンショウクイ属、本来、北海道には生息していないと文献等に記載されているが、2000年8月29日、恵山町柏野地区で確認、姿、ヒーリーリーと鳴くその鳴声から本種と確認した。その鳴声が命名の由来となったが、その声を聞くと他の鳥と間違うことはない。本種は、前年にも松前町白神天狗山で(財)山階鳥類研究所佐藤文男主任研究員ほかによって確認されている。
ウミウ・ヒメウ ペリカン目ウ科ウ属、例年3月になると、ウミウ、ヒメウは恵山町御崎地区先の断崖から、椴法華村元村へ続く断崖に繁殖のためのコロニーを造る。このため集まって巣造りのための行動を始める。
恵山町御崎地区は、道道元村恵山線の終点に当たる地区で、椴法華村元村に向かって約2000メートルの断崖絶壁が続いている。この断崖絶壁には、ウミウ、ヒメウ、オオセグロカモメ、ケイマフリなどの海鳥が繁殖していることが確認された。
ウミウ、ヒメウは、3月になると続々と繁殖のために集結する。集結したウミウ、ヒメウは、断崖の前浜、或いは御崎地区の船揚げ場周辺、御崎部落前浜の海中で潜水を繰り返し、巣材と思しき細い緑色の海草をくわえては断崖方向に運び込んでいて巣造りが進捗していることが窺える。緑色の海草は、スジメ、又は、アマモの1種と考えられる。機会があって、断崖の下を磯船で通過した際、断崖のあちこちに変色した細い緑草の塊がへばりついているのが観察された。
近年、ヒメウの減少が危惧されているがここでの目視観察では、個体数はウミウより多いと感じた。
これは、同コロニーを繁殖後も利用していると思われるウ類の個体数の観察でもヒメウの個体数のほうが多い。「かつては道東の根室市モユルリ島や道南の椴法華村恵山岬でも繁殖していた。」と、最新の文献に記されているが、人知れず生き残っていたことは明白である。このことは、恵山町、椴法華村の人々の自然に寄せる細やかな心が自然との共生を育み、種の保護に繋がったものと考える。
同地域で繁殖する海鳥類については、今後さらに詳らかにする必要がある。
ケイマフリ チドリ目ウミスズメ科ウミバト属、北海道RDB絶滅危急種、国RDB絶滅危惧Ⅱ類、本種は、椴法華村側海岸に面する断崖の一角で細々と種としての営みをしている。本道では手売島で繁殖するケイマフリが、ウミガラス(オロロン鳥として有名)と共に親しまれているが、恵山でもここ恵山岬で今も生存していた。日本に於ける本種の生息南限は青森県下北半島尻屋岬が繁殖の南限とされているが、本道では、ここ恵山岬が南限とある。なお、繁殖地は、絶海の孤島ではなく人里の間近にあり北海道本島にあることを特記しなくてはならない。
本種も、近年減少傾向にあり保護が必要とされる。前述のウミウ、ヒメウと併せて人の努力に掛かっている。
アオジ スズメ目ホオジロ科ホオジロ属で、本町内では初夏から晩秋にかけて繁殖のため南の地方から渡って来る。普通に見られ渡来時には、伸びやかな囀りで初夏の到来を告げるウグイスと並ぶ囀りの美しい野鳥である。
この鳥が、2001年10月16日、恵山町高岱地区で、環境庁委託事業の受託機関、(財)山階鳥類研究所の鳥類標識調査(調査者 吉田省三、(財)山階鳥類研究所鳥類標識調査者、日本鳥類標識協会会員)により回収され再放鳥された。このアオジは何処から来たのか。
鳥類標識調査とは、調査者が定めた調査地点で、捕獲回収した野鳥(この場合は、アオジ)に環境省が調査者に発給した標識を捕獲鳥に装着し再放鳥する調査を言う。その際標識に記載されている記号番号、判れば鳥の性別、年齢等を識別、これを記録、(財)山階鳥類研究所を経て環境省に送付、登録される。
その野鳥が何処かで再捕獲されると調査者から標識の記号番号の照会、これを検索、当該野鳥の移動経路を確認したり、初放鳥からの時間経過から野鳥の年齢などを知ることができる。なお、調査では、捕獲のことを回収という。当該アオジは、(財)山階鳥類研究所への照会から、2000年10月6日北海道枝幸郡浜頓別町山軽で捕獲され、山内昇氏により新放鳥されたものと判明、期間にして約1年(375日)、この間、アオジは生存し続け、どの様にして恵山に辿り着いたのか、浜頓別町から真っ直ぐ来たとしても、大雪山あり、日高山脈ありで、アオジの生態を考えるとき、遠い越冬地への往復などを考えると幾多の困難を乗り越えてきたことは想像に難くない。その経路に恵山があったことを証明できたことは非常に貴重な記録と言える。