古武井9遺跡からは東北地方北部が主分布域である後期初頭の十腰内(とこしない)式土器が出土している(第31図10~16)。中期末に典型的な長さ3.2メートル、幅2.0メートルの卵形で、床面に石組み炉をもった住居が発掘されているが(第36図1)、この住居に伴うはずのノダップⅡ式土器は1片も出土しておらず、発見されているのは東北地方北部に顕著な沈線文を主体とした十腰内式土器である。住居は後期初頭の十腰内式土器の時期に使用されていたと考えられる。折り返しの口縁をもった土器や、網目状撚糸文が施文された土器(第36図2)がこの住居に伴う。住居は恒久的なものではなく、河川での鮭漁を中心とした狩猟小屋ではないかと推定されている。このほかに、高さ5.5センチメートル、幅3.8センチメートルの筒型で内部が空洞なミミズク形土製品が出土している(第31図17)。頭部にミミズク特有の羽角があり、沈線で三角形に区画して羽を描いている。
町内で発見される後期の遺跡はその初期の遺物を伴ったものに限られる。
第35図 中浜E遺跡の後期初頭住居跡と出土した遺物(2号住居跡、1~7、入江式、8、石鏃、9、つまみ付ナイフ、10、スクレーパー、11~12、敲石、13、砥石、14、磨石、15、石皿)
『尻岸内町中浜E遺跡』北海道埋蔵文化財センター、1985
第36図 古武井9遺跡の竪穴住居跡と住居跡・土壙から出土した遺物(1、住居跡、2、網目状撚糸文土器、3~4、スクレーパー、5、土壙1出土の石冠)
『古武井9遺跡』尻岸内町教育委員会、1984