戸井町長 中釜 実
序 戸井町長 中釜 実
戸井町の開拓は古く、文治五年和人の移住に始まり、約六百年前からささやかな村が育っていたといわれますが、その開基は蝦夷地が北海道と改まり、開拓使の設置とともに函館支庁の管轄(かんかつ)のもとに戸長役場が置かれたときに定ったのであります。
以来明治三十五年に二級町村制、大正八年に一級町村制を施行し、着々村勢を伸展(しんてん)し、昭和四十三年開基百年を期に町制を施行いたしました。
この間道南の温暖な気候に恵まれた土地とはいい、その面積約五十三平方粁、海岸線約十七粁の狭長な土地柄(とちがら)と、太平洋・日本海の両洋に挾まれ、常に怒濤渦巻(どとううずま)く津軽海峡に生活の糧(かて)を求めざるを得ない環境下に、先人は血と汗によるたゆまぬ努力と不屈(ふくつ)の開拓精神によって今日の発展を齎(もた)らしたものであり、感懐(かんかい)ひとしおなるものがあるとともに真に欣幸(きんこう)にたえないところであります。
この開基百年を期し、わが町は新しい時代に即応(そくおう)した輝かしい戸井町二世紀を確立すべく将来のビジョンを掲げ、総合計画の緒(ちょ)につきました。然しながら近時の国内外の情勢は激動(げきどう)の一語に明らかな如く、理想を遂(と)げるには幾多の難関が山積しており、町民の確固たる決断と勇気を必要としております。
この機会にわが郷土の歴史を尋ね、わが町開拓の先人の苦闘の跡とその偉大な業績とを彷彿(ほうふつ)とすることは誠に意義のあることであり、また町民に勃々(ぼつぼつ)たる勇気を与え、戸井町に永遠の繁栄(はんえい)を齎(もた)らす礎石(そせき)となるものと信じて疑いません。
この企図(きと)のもとに開基百年記念事業として町史を発刊することとした次第です。
爾来(じらい)六ヶ年の日時を費やし、ここに上梓(じょうし)の運びとなりましたこの町史は、本町百年の風雪の跡を祥述(しょうじゅつ)し、北海道開拓史の中での道南の一視点としての役割を充分に果すものと自負しており、大方の好個(こうこ)の資料として味読(みどく)されるよう期待しております。
然しながら何分にも古きに亘(わた)る事でもあり、或いは多くの脱漏(だつろう)や誤りがないとはいい切れず、他日に備えて、忌憚(きたん)のない御批判をこい願ってやみません。
なお、本史に北海道知事、堂垣内尚弘氏の御序文をいただき、一層の光彩(こうさい)を添えることができたことは、誠に感謝に堪えず、厚く御礼申し上げる次第です。
終りに本史の草稿から上梓(じょうし)までの一切を掌理(しょうり)された野呂進氏の御労苦と、編纂並びに編集の任に当られた関係各位の御協力に対し、深甚なる謝意を表し、この書を先人の霊に捧げ序文といたします。